【液体化 排泄物化】
この日、私は回覧板を渡しにご近所さんの玄関口まで歩いていた。
長めの部活動を終えた後に家に帰ると、玄関口に回覧板が立てかけてある。内容を確認し、親には後で口頭で伝えればいいことだと判断したので、そのままご近所さんの家に持って行こう、と考えたのだ。まあ、回覧板を回すのは、私の我が家でのお仕事……お手伝いの一つだし。やらなきゃいけない仕事は先に終わらせておきたい。
日はもう暮れて、あたりは電柱にぶら下がった防犯灯の光だけがぽつりぽつりと寂しく光っている。道の脇に目を向けると、木の枝に張られた大きな蜘蛛の巣に蝶が引っかかり、もがいていた。嫌なものを見てしまったと顔をしかめて、足を早める。ご近所さんの家まではたかだか100メートルたらずだ。
私のご近所さんは、ガレージも兼ねた大きめの庭のついた家を持っている。そして、そこにはしょんべん小僧の石像がある。ところが、水が出ていない。おおかた、某清涼飲料水のCMが流行った時に作ったはいいが、維持が馬鹿馬鹿しくなったんだろう。
初めてそれを目にした時は思わず目をそらしてしまったけれども、今ではなんとも思わない。回覧板を回しに行くたびに目については、ぼんやりと眺めていた。
さて、私は玄関に立ってインターホンを押してみたけど、ちっとも反応がない。どうやら留守みたいだ。それじゃあと、玄関に回覧板を立てかけておいて、出口に向けて方向転換をする。
そこで、何の気なしに例のしょんべん小僧の方を見ると、何か光っている。
なんだろうか。ちょっとした好奇心から近づいてみると、どうやらしょんべん小僧の半開きの口の中から、その光は漏れているようだ。
なにがあるんだろう。何も考えずにつられて、石像の口の中に、手を入れてみる。
次の瞬間、ものすごい力で私の身体は引っ張られる。しょんべん小僧の口の方へ。端的に言えば、それが私の身体を飲み込み始めたのだ。あんなに小さな口なのに、私の身体は痛みを伴わずに入っていく。スライムになってしまったかのように柔らかく変形をしながら。漫画のごとく、こぼした液体を掃除機で吸い込むかのごとく。
そして、私の視野は真っ暗になる。
何が起きたのか、どうなっているのか。何一つわからない。ただ、身体が無理な体勢で、狭いところに押し縮められていることだけは、肌に当たるぶにぶにした肉の感触からわかった。
身体が絡まって身じろぎひとつできない状態のまま、混乱した頭だけ回る。ほんのちょっと前まで、外にいた。では、ここはどこだ。しょんべん小僧の口に手を入れたところまでは覚えているけれど。
——そこまで考えて、ある考えにたどり着く。
いや、まさか、そんな。夢か何かなんじゃないか。まさか、私。
しょんべん小僧に飲み込まれた?
そう思い至ったと同時に、私を包んでいる肉の壁がうごめく。
「んひっ!」
口からそんな、上ずった声がでた。ぐじゅりと、生暖かい舌で全身を舐めまわされるような感覚。予想外のその動きに、私は困惑し、恐怖し。それでもなおも止まらない動きに、口からは情けない声が溢れる。
そして、しばらく舐めほぐされるにつれ、暗く黒い気持ちとは別の、ある一つの感情が、私の意識に登ってくる。
「やあぁ! あぁん、あ、ひぅ!」
嬌声と共に吐き出されるその感情は、言ってしまえば悦楽だった。
いつの間にか肉壁の動きも、擦る程度のものから私を粘土細工のように捏ねくりまわすような、そんな激しいものにまで変わっていて、そしてその動きに逆らわず、身体を歪めながら、快感を受け止める私がいた。
「あっ————」
その言葉を最後に、私の口は私自身の身体に飲み込まれ、どこかにいってしまう。もう、身体のパーツがどこでどこだかわからない。たぶん、私は肌色のよくわからない塊になっちゃったんじゃないかと思う。それに絶望する気持ちももちろんあったけど、肉壁に舐め転がされる快感に、暗い感情は押し潰されて消えてしまった。
身体いっぱいにキモチイイが広がって、うまく考えられない。自分が今どうなってるのか。どうなるのか。それすらにも頭が回らない。
身体が震える。とぷり、と液体がかきまわされる音がした。そうか、私は今、どろどろに溶けてるんだ。始めに感じた窮屈さも、今はもう無い。だって私は今、ただの液体なんだから。
——肉壁が、ぎゅうっと小さく収縮する。
そして、私の快感のボルテージははちきれて、意識は真っ白に染め上げられる。もうなくなった全身が震え、かつて体験したことがない絶頂に襲われ。何か吸い取られるような感覚と共に、私の意識は果てたまま、蒸気のように薄くなって消えていった。
◆ ◆ ◆
夜の帳が下りたその中で、しょんべん小僧は静かに立っている。
するとしょんべん小僧は、突然びくりびくりと大きく震える。石でできているはずのその身体はまるで生きているように脈打ち、半開きの口からは、今にも生暖かい吐息が溢れそうであった。
そして、彼の小さな手のひらが握っている皮のかぶった陰茎から、黄色い液体——小便が勢いよく飛び出す。
つい13分ほど前まではそこにいた、私立凪原高校2年生、バスケットボール部所属の上利 奈々絵(アガリ ナナエ)のなれの果てである。
吸い込まれ、液体にされ、そして吸収、濃縮されて吐き出されたそれは、部活への情熱や、将来への希望や不安を含めた、紛れもなく上利 奈々絵100パーセントの成分をもっている。だがそこに彼女の面影など微塵もない。
ただの小便は排出されて役目を終える。上利 奈々絵も、そうであっただけである。それ以上の意味は存在しない。
小便小僧の立つからからに乾いた台座は、ひどくひび割れていた。びちゃびちゃと吐き出された小便は、そのひびをなぞるように地面へと伝い、赤茶色の土を湿らせる。
あたりには、公衆便所のような、きついアンモニアの臭いと、湯気が立ち上がる。
小便は、僅かに震えたかのように見えたが、それもすぐに土に吸い込まれ、ただの焦げた染みになった。
了
- 2015/05/23(土) 17:36:24|
- 被食・スカトロ系
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| コメント:5
>>名無しさん ありがとうございます、そう言って頂けて嬉しいです!
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- 2015/05/24(日) 00:15:43 |
- かんやん #-
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>>名無しさん いいですよね〜〜。これからもちょくちょく書いてきたいです。
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- 2015/06/12(金) 17:29:27 |
- かんやん #9ddgPdqs
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