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バケツと状態変化

B&D

【版権 食品化】

山城が風邪を出して寝込んだと聞いた時、実は少し嬉しかったんだ。それは、ボクが山城の何かになりたいっていう浅はかな感情に他ならなかった。
ボクがどんなに頑張ったって戦艦にはなれない。戦艦同士で交わされる軽口だったり冗談だったり、信頼関係だったり。そういうのが羨ましくて仕方がなかった。
山城はボクにすごくよくしてくれる。『あなたを気に入ってるのよ』なんてリップサービスまでしてくれた。……けど。本当は迷惑なんじゃないか。そう考えると、途端に自信がなくなってしまうんだ。ボクは山城のそばにいたい。けど、山城は違うかもしれない。山城は優しいからなんだかんだでボクを邪険にしないだけで、心の中では面倒臭がってるんじゃないだろうか。

ボクは山城に何をしてあげたんだろう。いつも貰ってばっかりで何も返せない。ただただ距離が開いていく感じがして、もどかしかった。

そんな時に、山城が熱を出して寝込んでるって聞いたんだ。扶桑が出撃してる間、山城は1人だ。
チャンスだと思った。
……結局のところ、だだの自己満足に過ぎなかったんだ。

だから、バチが当たったんだ。

好きな人の何かになりたいからその人の不幸を望む、なんて本末顛倒だったんだ。ボクは馬鹿だ。


身体が、動かない。


「うちの赤城さんはギンバイなんてしないと思ってたけど、まさか時雨とはね。びっくりだよ」

這いつくばるボクの前に立っているのは、夕張。その右手には、スプレー缶が握られている。あれを吸い込んだせいで、今ボクは動けないでいる。

「何かあったの? 普段あれだけ聞き分けがいいんだから、やっていいことと悪いことの区別くらいついてると思ってたよ」

力が入らない。歯を食いしばろうとして、口がふさがらないことにも気がつく。全身の筋肉が緩んでるみたいだ。
倉庫の床は冷たくて、這いつくばるボクの体温はじわじわと奪われていく。口の端から頬を伝い、床によだれが垂れる。
「ゆ、ゆる、ひ」
痺れる舌で必死に許しを請うと、信じられないくらい無様な声が出た。侮蔑とも憐憫とも取れるような目で、夕張はボクを見下ろしてる。

「ひょっとして、山城さんのために?」
「あ、う」

口から声が漏れる。図星だった。寝込んでる山城のために美味しい缶詰を持っていけば喜んでくれるって、そう思ったんだ。誰も今はいないだろうから、看病してあげるんだ。そのついでに、桃缶の一つでも持っていってあげようって。
夕張は、呆れたように大きくため息を吐いた。
「大バカね。……ごめんね時雨。私も仕事なの。差別はできないから」
それにさ? 彼女は肩を竦めて、首を傾げる。「私はね、意外とこの役割が気に入ってるの」





ボクを担いで、夕張は工廠へ、さらにその奥の部屋へと入っていく。普段は鍵が掛けられてて、決して入ることのできないその部屋の名前を、ボクは知っていた。
『懲罰房』。
不知火がこの前、ここで酷い目に遭ったってことを知っていた。新聞に泣き顔が載ってたから。あの不知火があんな風に泣きじゃくるだなんて、いったい何をされたんだろう。ずっと疑問に思っていた。今からボクは、それを身をもって体験することになるんだと気づく。悪寒が走り、太ももに鳥肌が立った。

弛緩してるんじゃなくて、柔らかくなってるの。そう夕張は告げる。その言葉の通り、ボクの身体は骨のないタコみたいにだるんだるんになっていた。愕然とする。服を引っ張られると、身体が曲がって、するりと抜けた。あっという間に裸に剥かれてしまう。
「な、に……ゃ、め……」
「服があると邪魔になっちゃうからね」
夕張はすっぽんぽんになったボクを持ち上げると、ドラム缶の中に放り込んだ。
変な方向に曲がった身体が積み重なる感覚があった。ドラム缶の底にくっついてる部分が冷たい。じっとりしとした脂汗が頬を伝う。嫌な予感がする。上から夕張の声が降ってくる。
「そんなに山城さんに缶詰を持ってきたいなら、時雨が缶詰になればいいんだよ」
次の瞬間、がこんと蓋をされた。目の前が真っ暗になる。それから、缶の中がじわじわと暖かくなる。けれどもそれは、絨毯のような柔らかい暖かさではなくて、砲撃を行った後の艤装のような、無機質な温かさだ。

暑い。やがてそう感じて、気づく。いつの間にか、缶の底に、うっすらと液体がたまっていることに。そして、それを垂れ流してるのは、自分の身体だということに。汗だったり、よだれだったり、涙だったり、おつゆだったり。そういうありとあらゆる体液が、身体中の穴という穴からとろとろと溢れて、止まらない。

「な、に……ぁ……」

戸惑いながら、ボクは感じてしまう。自分の身体から、自分の大事なものが抜け落ちていくような感覚を。身体が身体という枠を失って、心地よく広がっていく感覚を。自然と声が漏れる。

それから、ドラム缶がゆっくりと揺れる。その動きに合わせて、ボクの身体も揺れる。同時に、身体が解けていくような感じがして、手足の先っぽの感覚がなくなって、鈍い快感が、頭の中でじわじわ広がって。それで、何も考えられなくなってくる。

「ぁ……ぅ……」

何が起こってるんだろう。どうなっちゃうんだろう。

ちっとも分からないまま、ボクの意識は暗闇に呑み込まれていった。




目を覚ましたとき、ふっと、身体が持ち上がるような感覚があった。それと同時に、山城の声が聞こえる。
「缶切り、どこやったかしら」

……缶切り? どうするんだろ。ぼんやりした頭で何が起こってるのか考えて、分からないと悟る。かき混ぜられたような、溶けていくような心地よさだけが、ボクの中に残ってる。

その後すぐ、かきりと、金属が弾けるような音がした。ぺりぺりという音が続く。光が差し込んで、眩しくなって。それから、いつも通りの、不機嫌そうな山城の顔が見えた。

……ただ、いつもよりもすごく大きい。

……あ、あれ? なんだこれ。混乱している僕の身体に、すうっと太い棒が入ってくる。二本。なんだ、なんだ!? 冷たくて、太くて。敏感なところを触られたみたいで、変な声が出そうになって、出なくて、何かがおかしいことに気がついた。口はあるのに、声が出せない。それに続けて、手足の感覚も、背中も、首も、顔の感覚もあるのに、動かせないことにも気づく。
『時雨が、缶詰になればいいんだよ』
ふと、夕張が言っていたことを思い出した。
そして、切れた線がつながり、現在の状況を理解した。

愕然とする。

ボク、食べ物になっちゃってる。

時雨煮って、そういうことなんだ。艦娘から、時雨煮に。ぐずぐずしたお肉に。頭から爪先まで、顔も、手足も、お腹も関係なしに、全部、食べ物に。ドラム缶の中で身体がほどけてくような感覚があった。気持ちよくて、全身から力が抜けて。喘いで。あったかくなって。あれって、もしかして。料理されてたの?
そんな馬鹿な。だけど、これは、そんな。こんなことが起こるなんて。困惑と狼狽がボクの中に満ちていく。
そして、これから山城に食べられるのだと思い出し、ぞっとする。
山城が箸で掴んでるのは、ボクの身体の一部分で、山城にとってはお肉の欠片だ。
つまらなそうな目で山城は、ボクの欠片を掴み上げて、口元へと運んでいく。
え、う、嘘! た、食べないで!
山城の唇が開いて、ボクの身体にあったかい息がかかる。薄いピンク色の口の中が、綺麗に揃った歯が見えた。つばで湿った舌が、ぬらりと光る。そして次の瞬間、ボクは薄暗いピンク色の、山城の口の中に放り込まれた。ざらざらした舌が全身に押し付けられる。


あ、あああ! やだ、やだぁ!

山城の歯が、僕の身体に食い込む。弱いところが刺激されて、頭がばかになってしまいそう。いやだ、やめて、って、それしか考えられない。身をよじりたい。逃げ出したい。ごつごつした歯が身体を捻るように噛みちぎって、すり潰す。
頭の中が真っ白になる、なんて言葉じゃ足りないくらいひどい快感が、身体の奥から噴き出して、ボクの身体を破裂させた。なすすべなく、震わせる身体もないのに、イッてしまう。いろんな体液がじゅわじゅわ溢れて、止まらない。しょっぱかったり、甘かったり。ボクから出た汁が、ボクを包む。ざらついた舌が、糸を引いた唾液とぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて、ボクをねばついたペーストへと変えていく。

あぁぁ……た、食べられちゃってる……! ボク、山城に……!

また、歯が上がって、振り下ろされて、ボクに食い込んで。頭の中に電流が走って、体液が噴き出して。気持ちよすぎて、死んじゃう。細かい食べかすにされた身体のすべてが敏感なあれみたいになっちゃって、舌の愛撫でさえも無様に達してしまう。

「缶詰も悪くないわね」

そんな声が聞こえて、また、ボクの身体は噛み潰されくしゃくしゃになる。ぐずぐずの食べカスになってしまった身体からは、もう体液なんて出尽くしてしまったみたい。出涸らしのボクを、山城の舌は優しく、奥へと運んでいく。狭くて、暗くて、でも、あったかくて。どこか安心するような感じがあって。

ごくん、って音がした。

気がつくと、ボクは山城に見下ろされてる。

……あれ。

でも、今、確かに、飲み込まれた感覚があったのに。また、山城の箸が迫ってくる。なすすべなく突き立てられて、甘い刺激がボクの中を駆け巡る。
果てたばかりなのに、また気持ちよくなってしまう。なんで。何が起こってるの。必死に考えて、理解した。

まだ、食べ終わってないんだ。

山城の口に放り込まれ、ボクはお腹の中への落ちていく。咀嚼される感触に、何度も何度も果てながら。歪な快感に声を上げることも身を震わせることもできず、ただただ受け止める。繰り返す。何度も。山城がボクを食べきるまで。
そうして、だんだんと頭がぼんやりしてきて、幸せになってくる。食べられることが嬉しくなってくる。山城の感触全てが愛おしくなってきて、どきどきする。なんでだろうか。いや、当然だろう。だって、ボクはもう、ただの時雨煮なんだから。食べ物が幸せになるのは食べられる時にきまってるじゃないか。

もっと……。もっと、ボクを、食べてぇ……。


最後のひとかけらが、ボクが、山城の口の中で咀嚼されて、唾液と混ざり、喉の奥へと落ちた。


暗いお腹の中で、ボクの身体はごはんと混ざってどろどろのおかゆになる。暖かい肉の壁に柔らかく包まれて、まるで赤ちゃんになったみたいだ。自分の境目をなくして溶けるのが、こんなに心地よいなんて。もうどこまでが僕の身体なのかわからない。山城の身体の中で、ボクは。大好きな、山城の中で。蕩けてしまう気持ち良さに喘いでいる。ボクのことを最後まで残さず食べてくれたことがたまらなく幸せで、嬉しくて。普段はボクが頼ってばかりの山城が、距離を感じて悲しくて仕方ない山城が、こんな近くにいる。ボクを食べてくれたから。必要としてくれたから。
山城の胃がぎゅうっと収縮する。身体は波打ち、かき混ぜられて、上下左右前後がいれかわり、わからなくなる。少しだけぴりぴりする。消化液が染み込んでいるのだろう。敏感なボクはまた達してしまう。くらくらして、けれどもそれは辛いわけじゃない。こうやって、山城の一部になれるんだ。このあと胃から腸へ下って、吸収される。搾りかすにされたって、それでいい。ボクは全て山城のものになるんだ。そう思うだけで、また、何度も、穏やかな絶頂を迎えてしまう。切なくて、でも満たされている。気持ちいい。
ああ、幸せだ。
浮かんでいるような、落ちているような感覚に包まれながら、ボクの意識はだんだんと消えていった。





数日後。工廠の床に、ボクは寝そべっていた。いや、這いつくばっていた、といったほうが正しいのかもしれない。夕張が、呆れたようにボクを見下ろしてくる。

「あのね時雨。私はね、あなたの事を頭の悪い子だとは思ってないの」
「……」
「だからさ、何が言いたいかっていうとさ。わざと捕まってない? 私に」
「そんなことないにきまってるじゃないか」
「山城さん『美味しかった、また食べたい』って私にも言ってきたよ」
「……それが?」
「すっとぼけちゃって……いいわ。山城があなたを食べ切った後に、あなたが自分から缶詰になろうとしたってことを伝えてあげるから」

「!!!」
「……わざと捕まったってのは図星みたいね」

「きっ、君には! 失望したよ!」

つい、がらにもなく大きな声が出てしまう。

おしまい
  1. 2016/06/14(火) 03:02:19|
  2. 食品化
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