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バケツと状態変化

ラヴィダヴィ

大概にしといてよ
【ぬいぐるみ化】

【 前 】


ばつん。

何かが弾けるようなそんな音が、部屋に響く。

規則正しく、何度も。

ばつん。



何度も。




【鉄島 綺咲(クロシマ キサキ)】

わたしは、遊芝 藍佳(ユシバ アイカ)先輩のことが好きだ。
通学路。退屈な授業中。お風呂。寝る前のベッド。気がつくと、先輩のことをいつも考えている。心の奥が、ふわふわ浮いてるみたいで心地よくて、でも少し苦しくて。言葉にできない感情が胸のなかいっぱいに広がって、たまらなくなる。のぼせた時みたいに、まわりの世界がやけに早くなって、心臓もとくとく高鳴って。淡い桃色と、黄色が混ざったような、そんな感情。来月、最後の記録会がある。それが終わったら、先輩は部活からいなくなってしまう。そんな時期になって、自分の中の弱さが、隠せないほど大きく育っていたことに気がついた。
わたしは、先輩が好きなんだって、ようやく気がついたんだ。
藍佳先輩は、水泳部の部長だ。厳しくて、無愛想で、感情をめったに表に出さなくて。でも、誰よりも部員のことを気にかけてるし、誰よりも努力してる。そんな部長のことを嫌いこそすれども、尊敬しない部員なんて、いないと思う。いや、いるわけない。
はじめは、ただ怖い先輩だと思った。笑う様子が想像できないその顔を見て、鉄のような人だと、そう思った。必要最低限のことしか言わないし、声も低い。冷たい光のさす目は、相手を射竦めるみたいで。正直、苦手だった。それからすぐ、同じ自由形(クロール)だって知らされて、うわ、やりにくいなぁ、なんて、そんなことさえ思った。今となっては馬鹿馬鹿しいかぎりだ。
きっかけは、わたしが大会前に怪我をしちゃったこと。友人に混じって、先輩が一人でお見舞いにやってきて。大丈夫か、本当に大丈夫かって何回も聞いてきた。びっくりしたし、なんで来るのか意味がわからなかった。……後から、先輩も一年生の時に同じように怪我をして、当時物凄く凹んでたって聞かされて。それから、なんとなくだけど抵抗がなくなった。
練習に付き合ってもらったり、沢山アドバイスをしてくれたり、一緒に遊びに行ったり。
一緒にいた一年とちょっと、わたしは誰よりも先輩を見ていた自信がある。いろんなことを知った。彼女は感情が無いのではなく、むしろ激情型だということ、それを全部抑えつけてること、ひどく負けず嫌いなこと。
背が高いことを気にしてたり、時々ぬけたことを言ってしまったり、名前で呼ばれるのが苦手だったり、逆にあだ名で人を呼びたがらなかったり、通学途中で野良猫を触ろうとしたり、そういう可愛げのある面を知るたびに、わたしはどんどん魅了されていった。
愛佳先輩の知らない面を知りたい。もっと、もっと。端から端まで、全部!
静かだけど、決してドライではなくて、瞳の奥ではいつも熱い炎が燃えている。真面目で、厳しくて、でも他人思いで。……ちょっと怖いけど。そんな愛佳先輩を、わたしは、本当に、心の底から尊敬している。

大好きだ。


その藍佳先輩は、今、目の前にいる。
わたしのベッドの上に、横たわっている。

「鉄島、なんの冗談?」

目をさました先輩は、わたしに尋ねた。



【遊芝 藍佳】

目を醒ました時、激しい頭痛に襲われた。頭が割れそうだ。酷い夢を見た。気だるさにのしかかられてるみたいで、動けない。けど、なんだか身体はあったかい。

重たい目蓋を必死に押し上げる。視界に入ってきたのは、見慣れない天井だった。……どこだ、ここは。
私は、眠る前に、確か……鉄島の家に遊びに来てて。それから……。
記憶を手繰り寄せて、不自然に意識が途切れていることに気がつく。出されたお茶を飲んだら、猛烈な眠気に襲われた。そこから記憶がない。
「起きました?」
目の前に、鉄島の顔が現れる。私の側に立っているようだ。反射的に、彼女の名前を呼んでいた。
「ん……ん……く、鉄島?」
喉がカラカラで、声がかすれてしまった。かつてないほど体調が悪い。頭が働かなくて、上手に思考を組み立てられない。舌は回らないし、寝起きのせいか視界もぼやけてる。
「よかった、起きないんじゃないかって心配したんですよ」
「あ、あぁ……悪い……」
身体が重たい。大会の翌日みたいに、全身に力が入らない。仰向けで大の字に寝たまま、背中とベッドがひっついてしまったようだ。
どうにもならないので、情けないが助けを求めることにする。少しばかり恥ずかしいが、仕方ない。
「鉄島、ちょっと起き上がるの手伝ってくれないか……? 力が入らないんだ」
私の言葉を受けてか、鉄島は小さく笑った。私が情けないことを言ったから笑ったのかと、一瞬そう思った。けれども、次に彼女のつくった表情に、大きな違和感を覚えた。片目を細めて笑うその表情は、いびつな印象を私に与えた。屈託のない笑顔を見せる平時の彼女からは、全く想像がつかない。鉄島は肩を竦めて、嘲るように言う。
「起こす? 持ち上げることならできますけど」
「……? それって、どういう……。もう帰らなきゃいけないし、手伝ってくれると助かるんだけど」
「帰らなきゃいけない? どこに?」

……会話がかみ合わない。何かが変だ。くすくすと、口に手を当てて可笑しそうに笑っている。何がそんなに面白いんだろう。こういう風にからかわれることを私が嫌がるって知った上で、おちょくっているんだろうか。それに、この仕草だって、いつもの彼女のものとは思えない。
私の感情を見透かしているのか、いないのか。彼女は不愉快な笑みを崩さない。ただただ嬉しそうに、言葉を続ける。

「大丈夫です藍佳先輩、もう先輩はこれから先この部屋から出ませんし、出ようなんて思えなくなりますし、出られなくなります。わたしがそうあるよう、つとめますから」

私をじっと見据える鉄島の目は暗く濁って、底の見えない沼のようだ。得体の知れない恐怖と不安が、ゆっくりと、私に覆い被さってくる。
少なくとも、私の知っている鉄島綺咲は、こんな人間ではない。なかったはずだ。

「鉄島、何の冗談?」
「冗談って、そんなふざけた冗談は先輩は嫌いでしょう? 本気ですよ。なんなら、持ち上げてあげます」

その言葉の直後に、彼女の手が私の視界に映る。迫る手を前に、あることに気がつく。
彼女の手が、ものすごく大きい。

「あ……え?」
「ほら」

そのまま掴まれて、持ちあげられる。鉄島が大きいんじゃない。私が小さくなっているんだ。それも、彼女の手の平に収まってしまうくらいに。

「な、え? え?」
「先輩は、お人形さんに、ぬいぐるみになっちゃったんですよ」

鉄島の両手が、私をぶら下げる。ばんざいした格好で吊られたまま動けない。……なんだこれ。

「に、人形?」
「はい、そうです。まるっこくて、ふかふかして、とっても可愛いぬいぐるみですよ」

ぬいぐるみ? ぬいぐるみって、あの?
視界の端っこに写った私の身体は、光沢のない肌色をしていた。まるで、布みたいな質感。そう、ただの布。そこまで認識してようやく、ぬいぐるみになっちゃった、という発言の意味を理解した。何の比喩でもなく文字通り、私は『ぬいぐるみになってしまった』んだ。

「え、う、うそ……」
そんな言葉が口をついて出た。これ、夢? なんて思った。だって、人がぬいぐるみになるだなんてあり得ない。でも、見れば見るほど私の身体は普段の肌とかけ離れていることに気付かされる。鉄島がもう一度言う。

「先輩は、ぬいぐるみになっちゃったんです」

ゆっくりと、言い聞かせるようなその声が、私の中に強く響く。なにそれ。

鉄島が、私を手のひらに乗せて、きゅっと軽く握る。体温の生暖かさが私を包む。彼女の指が、私の肌に食い込む感触がある。優しく、ゆっくりと、深くまで。
私、本当にぬいぐるみになってる……。
「かわいい、かわいいですよ、先輩」

改めて、自分の身体を確認した。手足はデフォルメされて、関節がなくなってる。付け根から先端まで、袋状になっていて、その先端に指を思わせる線が……刺繍が入ってる。お腹の真ん中には、ペケ印でおへそがマークされてる。あんまり膨らんでない胸の先っぽに、薄いピンクの糸でぽっちが描かれてる。腰回りのくびれはすっかりなくなってるみたい。股間には縦に縫い目が入っていて、布が寄って、そういうのを思わせる形に少し変化してる。
ぬいぐるみ。裸。動かせない。ふわふわしてる。現実を受け止めきれなくて、思考が停止してしまう。意味がわからない。なんで。どうやって。いつ。いくつもの疑問が頭に浮かんでは消えて、何一つとして言葉にならない。

輪郭を確かめるように、鉄島は私の身体を撫でる。

「ホントにかわいいです先輩。普段はつーんとしてるのに、こんなになっちゃって」
「え、あ……」

彼女の人差し指が、私のおへそに触れる。それから、つうっと輪を描くように動いていく。優しく、ゆっくり、ゆっくりと。くすぐったいけど、握られてるから身動きが取れない。それに、なんだか暖かくて、柔らかくて、とても気持ちいい。こんな状況なのに。ひょっとして夢なんじゃないのか、これ。だって、人間がぬいぐるみになるだなんてあり得ないじゃないか。非現実的にも程がある。なら、これは明晰夢、ってやつだろうか。夢を夢だと気づいて、好きに行動できるっていう。……今握られてる私は、何をすることもできないんだけど。

でも、そんなに悪い気分じゃない。

なんだかくすぐったくて、変な声が出そうになる。おへそのまわりを回っていた指はだんだんそこからそれて、私の胸に触れる。

「……鉄島、やめて」
「やめません」

指が、私の胸を押して、その形に凹んで、離して、元の形にゆっくりと戻る。甘ったるい感覚が、私の中に染み込んでくる。くすぐったくて、気持ちよくて、少しぴりぴりして。でも、満更でもない自分がすこしいて。

「……やめてって」
「やめません、絶対に」

こんな状況で感じるわけないじゃない。そう言いたかった。こんなのおかしい。なんでこんなことするの。口に出そうとした。けれども、何も言えなかった。
鉄島の据わった目に射すくめられたから。

途端に、寒気がする。今、私は何を考えてた? 人形でいいって思わなかったか? ……本当に、これって夢?

鉄島の細い指が、私の身体中を舐め回すみたいに愛撫する。上ずった声が、私の口から溢れた。……本当に、自分の身体じゃないみたい。満足げに鉄島は笑う。

「先輩、大好きです」

彼女が頬をすり寄せてくる。暖かくて、いい匂いがする。それが気持ちよくて、そしてひどく不気味だった。

「ま、待てよ鉄島」
「なんですかぁ?」
「私は今、人形になってるのか?」
「ええ、そうですよ」

満面の笑みを浮かべる彼女にたじろぐ。かわいい、と彼女は人差し指でつついてくる。どうにか、元に戻してもらわなければ。元に戻してもらわないと…………。

「こ、これから。私をどうするつもりだ……?」

そんな質問が、口をついて出た。

「どうするもないですよ、このまま私と一緒にこの部屋で暮らすんです」
「こ、このまま?」
「そうです。これからずっと、ずーーーっと! この部屋で、私と2人っきりで過ごすんです」

馬鹿げた台詞だった。けれども、それが本気であることが嫌でも伝わってきた。うっとりとした表情で、けれどもその瞳はしっかりと私を見つめていて。そうか、こいつは狂っているのだと、理解してしまった。

「私も、あとで人形になりますから。2人で仲良く暮らしましょう?」

これも、本気の台詞なんだろう。そう思わせるだけの圧力があった。
嫌な汗が全身から噴き出るような気分だった。


「お、おい。元に戻してはくれないのか?」
「ええ、だって元に戻したら、先輩は逃げちゃうじゃないですか」

その答えに、私は愕然とする。こいつは、私が嫌がるのを知って、ここに閉じ込めようとしてる。逆に言えば、これから先もずっと、私の意思なんて関係なく、ここで過ごすつもりなんだ。

なんとかしないと。なんとか説得しないと、きっと。本当に。


「で、でも。私が好きなら、お前は私を元に戻すべきなんじゃないか?」
「えっ? 何でですか?」

尋ねる彼女の目は、笑ってない。……これほど鉄島を怖いと思ったことはない。言葉を選んで。慎重に。

「だって……例えば、私が布切れだったとして、お前はそれに恋をしてることになるんだぞ? それって、鉄島が好きなのは布切れで、私が好きってことにはならなくないか?」

その言葉をうけて、鉄島の目は大きく開かれる。理解したのだろうか。説得に成功したのか。あるいは。不安になる私をよそに、彼女は目を細めて考えるそぶりを見せる。
しばしの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい、何言ってるかわかんないです」

えっ。

私が二の句を継ぐ間も無く、鉄島はまくし立てる。

「先輩がいけないんですよ、わたしがヘンになっちゃったのは先輩のせいなんです。先輩が優しくするから、わたしにだけ素敵な所を見せてくれるから、特別なんだって思ったんですよ。それが、とっても嬉しくて! でもですねえ、知ってるんです。先輩にとってわたしはそんなに大切じゃない。きっとわたしのことなんか、卒業したら忘れてしまう。他の人と同じ、良い思い出になる。ただの! 思い出に! そんなの、耐えられるわけないですか!!」

吐き出した鉄島の表情は、酷く歪んでいた。怒りと、悲しみと、諦観と、絶望が混ざって、どろどろになった精神が伝わってくるようだった。ぶるぶる震える彼女の瞳を見て、失敗したのだと、私は悟る。

「先輩、とーーー……っても! 可愛いです! わたしは、先輩のこと全部が大好きなんです! たとえボロ雑巾になったって、愛し続けますから、安心してください! なんなら証明しますよ、今ここで!」

どん、という音が身体に響いた。首の根っこを掴まれて、私はベッドの上に強く押さえつけられていた。まるで、そう、断頭台にかけられるみたいに。


「えっ……?」

ひやりとした感触が股にあった。身体の上と下から、挟まれるみたいに。はさみ。が。股の縫い目に合わせて。

「えっ、ちょっ! 待って!」
「えい」


ぱつん。


「あ、あっ。あああぁぁ!」

股が、ぱっくり裂けて。そこから、綿が。私の、中身が。溢れて。頭の中がまっ白になって。

「や、やっ! やだああぁっ!」


——私を待っていたのは、陵辱だった。

さっきまで触られるだけでぴりぴり気持ちよかったのは間違いでもなんでもなくて、全身が敏感になってるからだった。身体中のその敏感さが、切り口に、股に殺到してる。快感なんてなくて、ただ絶頂が押し寄せてくる。割れ目から溢れてくる綿は体液を吸ったみたいに重くなってていて、それがぼたぼたとベッドの上に転がっていく。身体の中身を快感に変換して吐き出しているような、そんな錯覚をする。事実、私のお腹はどんどんへこんでいくようだった。

「まずは、雑巾にするには中身を抜かないと」

そんな声が聞こえた。次の瞬間、私の割れ目に指が突っ込まれていた。

「お、うぐっ……」

おへその上の方まで、指がきてる。
鉄島は続ける。

「こうやって、引っ張り出せばいいんですよ」

彼女はそのまま指を曲げて、私の中の綿を引っ張り出す。それに合わせて、私の声が溢れる。深く挿入されたものが、身体を擦って。

「う、あ、お、お」

ずるずると、身体から抜けていく。でたらめな快感だけ残して。

ぽっかり開いた私の穴に、再び指が挿入される。今度は、2本。さっきより深くまで。

「ん、やっ、うっ!」
「そうやって声を出すの、面白いですね」

指が、トンネルを掘るみたいに身体の中で動きだす。ぞわぞわして、身体がはねる。弱い所をくすぐられてるみたい。喘ぐと、嬉しそうに指の動きが激しくなる。

「んうぅう! やっ! やめてよぉ!」
「中でひっかかっちゃってますねぇ」
「や、やだ、それやだぁ、カリカリしないでっ、んうっ!」

私の声なんて無視して、身体の中で指が暴れまわる。情けない声が口から溢れてくる。身体の中を引っかき回されて、引き抜かれてる。私の身体が、中身が、なくなっていく。それなのに、身体の芯が、気持ちいいところが刺激されて、トんでしまう。ずるずると、内臓の代わりに綿が私の股から引っ張り出されて。時々綿がちぎれて。また鉄島の手が私の奥の方に指を突っ込んで、引っかきだす。
「う、あ、あぁぁ……! やめ、やめてぇ!」
目がチカチカする。さっきからずっとイきっぱなしで、苦しい。気持ちいいって感覚を押し付けられて、無理矢理絶頂させられてる。股から愛液が溢れて止まらない、そんな錯覚をする。身体中の神経が股に集まったみたいで、腰が砕けてがくがく震えて、体をねじってよがることしかできない。

彼女の指が引き抜かれる頃には、私の身体はくしゃくしゃになったいた。
綿まみれになった指を眺めて、鉄島は言う。

「えっちなお人形さんですね」
「あ、ひ……う……」
「泣いてる先輩も、もちろん可愛いですよ。ほら、また引っかかってるみたいですね」
また私の裂け目に指が添えられる。反射的に叫ぶ。
「やだ、やだぁ!」
「それじゃあ自分で出します? ほら、どうぞ」

そう言うと、鉄島は私を机の上に転がした。逃げよう、なんて気力は残ってなかった。べそをかきながら、でも従うしかない。乱暴に綿を引っこ抜かれて頭がおかしくなっちゃうなら、少しでも刺激しないように自分でやった方がましだ。
よろめきつつ、身体を起こそうとして。手足がもうぺしゃんこになってることに気がついた。綿が抜けて、ただの皮になってる。こんな手足じゃ。どうしようも……。

「ふふ、手伝ってあげましょうか?」
「じ、自分で、やるから!」

辛うじて動く腰を上げて、下ろして。その時にベッドに押し付けられる圧力で、綿をひりだそうとする。
「んっ……ふっ……!」
傍から見れば、ベッドに向けて腰を振って自慰をする、滑稽で情けない姿に見えるんだろう。胴体と頭だけになって、それでも快感を貪ろうとする、人形に。
けど、今の私にはそうすることしか出来ないんだ。だって。そうしないと。指が、また。私を壊してしまうから。

ぽろぽろと、割れ目から綿のかけらが顔を出してくる。卵を産んでるみたい。なんで、私が。こんな目に。

「じれったいですね」
「えっ」

鉄島の手が、私の首を掴んで持ち上げる。それから、もう片方の手を、その掴んだところにあてがって、ぎゅっと握りしめた。そのまま、握りしめた手を下の方に。ちょうど、残り少なくなった歯磨き粉を絞り出すみたいな形で。

悲鳴が口から溢れた。電流が流れたみたいに身体がこわばって、頭がまっ白になる。それから意識が遠のいて。また、性感で叩き起こされる。だめだ、こんなの! 壊れてしまう……!

なんとか正気を保とうと、身体中に必死に力を込めて。そこに、鉄島の手が、無慈悲にも添えられて。

「あとは、頭だけですもんね」

ぎゅっと握って、私の頭の中身を下の方へ押しやる。胸よりも、おへそよりも、下へ。幾度となく焼き切れて、感光した写真みたいにまっ白になった私の中身が、股に開かれた裂け目から、顔を出す。

耐えられなかった。張り詰めた糸がぷつりと切れたみたいに、私の意識は遠のいていく。

まるで、自分を見下ろしているみたい。受け入れたくない事実が、心にずぶずぶ染み込んでくる。

私は、ただの布切れなんだ。人間でもなくて、人形ですらなくて。空っぽの、抜けがら。もう、なんでもいい。どうでもいい。このまま、ずっと。このままだって……。


ぱさりと、鉄島の手から私は落ちた。脱ぎ捨てられた服のように、私は皺くちゃになってベッドに転がる。私の下にある、さっきまで私の中身だった綿があったかい。

「今の先輩みたいなのを、ハンドパペットって言うんですよ」

鉄島は人差し指を頬に当てて少し考え、笑う。

「いや、ふふ。布の袋って言った方が正しいかもしれませんね」
「ぁ……ゃ……」
「ふふふ。はははは。あははははは」

空っぽの私の中に、彼女の笑い声が響く。

ああ、おかしいなぁ。

なんで、私が。

彼女は私をつまみあげて、ぽっかり開いた股の穴に手を突っ込んだ。おう、と呻くような喘ぎ声が吐き出された。全身が内側から擦られる感覚に身悶えする。おかしくなってしまう。いや、もう、とっくに。私は。

ああ、でも、まだ。

いやだ。助けて。誰か。

おかあさん……。

鉄島の小指は私の左腕に。親指は私の右腕に。薬指と、中指と、人差し指は、私を貫くように胴体から頭に。まるで私は、不恰好な鍋つかみになってしまったみたいだ。

もう、とうに限界だった。

「ねえ先輩、私のこと大好きですよね?」
「……ぃ……ゃ」

鉄島が、私の中で指を折っておじぎさせた。ぺこりと、うなだれるようにして私は頷いた。

嬉しそうに、鉄島は叫ぶ。

「ふふ、これで相思相愛ですね!」

新しいおもちゃを与えられた子供のように喜ぶ彼女を、私は呆然と眺めることしかできない。空っぽの私からは、涙は流れない。声も枯れて、しゃがれてしまった。

「それじゃあ、切り開いて、縫って。雑巾にしてあげますね。永遠に、ボロ切れになっても使い続けてあげますから、安心してください!」

鉄島の右手には、大きな裁ちばさみ。口を開いたそれが、刃が、私のお股にあてがわれる。冷たい。お股に開いた切れ込みからハサミを入れて、私を真っ二つのひらきにするつもりだって、気づいてしまう。

「ゃ……め……」

これ以上、もう耐えられるわけがない。多分、本当に。本当の本当に、壊れてしまうんだ。心まで快感と絶望に切り裂かれて、ただのぼろ雑巾にされて。これから。これから、ずっと。

「や、やだ……」


ずっと。永遠に。布切れにされて。


「それじゃあ、せーの!」

「やだああ!!!」


ばつん。





【 後 】


目を醒ました時、酷い頭痛に襲われた。頭が割れそうだ。酷い夢を見た。後の気だるさにのしかかられてるみたいで、動けない。


……でも、私の中身はもう空っぽで。



……ばつん。


何かが弾けるようなそんな音が、部屋に響く。規則正しく、何度も。



ばつん。


何度も。


ばつん。


了。
  1. 2016/12/04(日) 12:44:00|
  2. 物品化
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