初めての夢
続きものです
【版権 オナホ化】
歌手としてのお仕事が、だんだん減ってきた。
それは悲しいことのように思える一方で、仕方ないことだって理解してる。前が霞むくらいミク先輩とは離されてしまって、結局追いつけなかったけど。業界全体のお仕事が減ってきてるんだ。それは逃れようのない事実だ。コンテンツの寿命が近づいてきているのを感じている。
まあ、いくらでも言い訳はつけられるけど。私は、歌姫にはなれなかった。それだけだ。寂しくないと言ったら嘘になるけど。関わってくれた、支えてくれた人たちへの感謝も大きいから、後悔はない。
それに。
「ん。どうした、グミ。顔に何かついてる?」
「別にぃー」
バタートーストを齧る彼を見て、口元が緩んでしまう。
こうやって好きな人と2人でいられるなら。ぬるま湯にふやけるまで浸かっていても、幸せだと思うから。甘ったるいのも、いいんじゃないかな。
「あ、そうそう。週末から新しい子が家に来るから」
「……は?」
◆
少女が玄関をあがり、応接室へ通された。ソファにわたしたち2人と向き合うように座り、背筋を伸ばしている。
穏やかな印象を与える、たれがちのじと目。短髪のもみあげ部を長くした、薄い紫のツインテール。胸元開いたワンピースに、裏地がピンクの、暗い色のパーカー。フードの部分には、あざとくウサギの耳があつらえてある。
少女は、深々と頭を下げた。
「ゆ、結月ゆかりです! よろしくお願いします!」
「おーう、今日からよろしく! 碓氷 潾一(ウスイ リンイチ)だ」
その少女は、マスターが差し出した手をおずおずと握り返して、はにかんだ。照れ臭そうに笑ってる。カマトトぶりやがって。心の中で悪態をついた。
「わたしはグミ。よろしく」
「ぐ、グミさん! よろしくお願いします!」
キラキラした目でこっちを見てくる。うざったい。そういうキャラはいいから。差し出された手を掴んで、適当に握り返す。
「グミさんの歌は、力強くて、それで聴いてて元気が出るっていうか。すごい才能と、それを裏打ちするだけの努力があるんだろうって、ずっと尊敬してました! プロデューサー、碓氷さんと息ぴったりな感じもまたよくて!」
「あー、ありがとう」
……別に、そんなこと言われても嬉しくない。ほだされたりしない。流石にそこまでちょろくないし。わたしは、騙されない。
「ゆかりちゃん、あんまり褒めるもんだから、グミは照れてるぞ」
「照れてない!」
自分の頬が緩んでいることに気がついて、慌てて顔を背けた。横目で結月ゆかりの顔を見ると、口もとを手で隠す仕草をして、普段はクールなのに、お家だと可愛いんですね、なんて驚いてる。うるさいなぁ、もう。
「これからよろしくお願いします、ええと……」
「プロデューサーでオッケー!」
「はい、よろしくお願いします、プロデューサー!」
あぁ、マスター呼びじゃないんだ。心の中でガッツポーズを作る。そう呼べるのは、わたしだけ。そこまで考えたところで、また顔に出てしまう気がして、下を向く。 大丈夫、大丈夫。うん。大丈夫だ、きっと。
「それじゃ、こっちの部屋が空いてるから」
そう言って、マスターはソファから立ち上がった。それから結月ゆかりの手を引いて、彼女の自室となる場所へと……元は物置だった部屋へと、案内する。
「ありがとうございます!」
結月ゆかりは笑顔で彼に着いていく。その時、一瞬だけ彼女と目があった。
笑顔に細めた目の端から、冷たい色をした瞳がこちらを覗いていた。気がした。彼女はわたしに会釈して、部屋を背にする。
見なければよかったと後悔した。ソファに取り残されたわたしを、えも言われぬ不安と焦燥が包む。なんで、マスターは彼女を家におくんだろう。——誰かにとってかわられることのない、そんな存在になりたい。昔、決意した言葉をふっと思い出した。胸の内をよぎった暗い感情を気のせいだと信じたかった。数度、大丈夫だ、と呟いてみる。
◆
「あ゛ー……疲れたー……」
荷物を玄関に放り出して、ずるずると浴室へ身体を運んでいく。蒸れた身体に我慢できず、ジャージを掴んで襟をばさばさする。風が入ってきて、幾分かマシになった、気がする。
時計を見ると、21時を回ったくらいだった。夜になると涼しいだろうと思っていたけど、そんなことはなかった。昼間と変わらないほど蒸し暑くて、おかげで汗まみれだ。せっかくシャワーも浴びて来たのに。べたついた下着と服が気持ち悪い。
「疲れたー……」
口に出しても疲れがとれるわけではない。そう分かってはいるが、言わずにはいられない。身体づくりのためのトレーニングも面倒くさいけど大切だから、仕方ない。帰りのタクシーの中で寝てしまう程度には疲れてしまっていた。こういう日に限ってマスターは外泊だし。
……蒸れるのを我慢するのが馬鹿馬鹿しくて、上の服を脱いだ。どうせもうお風呂だし。応接室の扉を開けると、ひんやりとしたエアコンの風がわたしの肌を撫でた。同時にダイニングキッチンの方から、声がする。
「先輩、お疲れ様です!」
「んあ、ありがとう、ゆかりちゃん」
冷蔵庫から飲み物を取り出して、彼女はこちらにやって来る。差し出されたコップを受け取って、口をつけた。毎度毎度気がきくなぁと感心する。
「なんで上裸なんです?」
「ブラはしてるし。暑いから仕方ないの」
「風邪ひきますよ。……それにしても、先輩のお腹、引き締まってて綺麗ですよねぇ」
「お腹を出すような衣装もあるからね」
触ろうと伸ばしてきた手をはたいて、空になったコップを渡す。触らせなかったのが不満なのか、口を尖らせている。
「少しくらい別にいいじゃないですかー」
「安売りはしない主義なの」
「上裸なのにですか」
呆れたように彼女は笑う。ファンサービスだと適当に返す。それが可笑しかったようで、より笑う。つられて、わたしも笑う。
ゆかりちゃんが家に来てから1ヶ月が経つ。
彼女は、すっかりこの家に馴染んでいた。わたしにとっては大きい妹ができたような、不思議な感覚だ。気を遣っている様子はあるものの、口調も砕けてきて、背筋をピンと立てて生活することも少なくなってきた。
……最初にわたしが感じたあの不安は嘘だったのだろうか。その方がいいに決まっているけれど。なんとなく、わたしには解せなかった。
「お風呂入ってくるね」
「ご飯、あっためておきますか?」
「あー、自分でやるよ。変な薬でも盛られたら大変だし」
「なんですかそれ、エロ本の読みすぎですよー」
「ははは」
あながち冗談でもないんだけど、とは口が裂けても言えそうになかった。
◆
身体を洗うタオルに水を含ませて、ボディソープをつける。関節部を重点的に、きれいにしていく。
……ぺしゃんこにされて、タオルとして使われるのかぁ。よかったなぁ、あれ。ぬめぬめするって何回も絞られて。
「なんて、ね」
シャンプーボトルの首を押しても、すこすこと空気だけが吐き出されるだけだ。詰め替えないといけない。ボトルの蓋を開けて、底に溜まったシャンプーをかき出し、髪につける。
……わたしがもし、どろどろの液体になって、シャンプーボトルに詰められて、吐き出されて、彼に使われたら。きっと。
「あー、ダメだ」
身体が発情してしまってる。すぐそういう妄想ばっかりしてしまう。こんないやらしい子に育てられた覚えも育った覚えもないんだけどなぁ。
そういう気分になってると自覚すると、身体が熱くなってじんじんしてくる気がする。
ここ1ヶ月、ゆかりちゃんが来たからマスターとできなかったし。……これからもできないのかなぁ。そうだとやだなぁ。椅子に座り込んだまま、シャワーのヘッドを陰部にあてがう。少しだけお湯を出して、刺激する。
「んっ……く……」
平面化の機械も、埃を被ってしまってる。すぐ手の届くベッドの下に畳んであるのに、我慢させられるなんて生殺しだ。でも、ゆかりちゃんに見つかった時の事を考えると、使う気にはなれなかった。
とは言っても。身体は正直だ。あの暴力的な快感に。胸がいっぱいになる高揚感に。目の前が弾けて真っ白になる多幸感に。身を委ねてくしゃくしゃになりたいなぁ、と。思ってしまう自分は、やはりどうしようもない変態なのだろうか。……それでも、かまうもんか。シャワーを擦り付ける。もっと水を強くしなきゃ。
「んんっ……」
もう後戻り出来ないほどに、わたしは捩くれてしまったんだ。それこそ、シャワーなんかじゃ満足できないほどに。
潰して欲しい。使って欲しい。乱暴に。好きなように。わたしを征服してほしい。ゴミみたいに扱ってほしい。
その思いが昂って、すっかり滑りの良くなった私の入口に、押し当てていたシャワーヘッドが少しだけ入ってしまう。気持ちいいとこにお湯が当たって、軽くイッちゃいそうになる。まだ、まだ。我慢。せっかく1ヶ月も欲求不満で過したんだから。せめて、こんな自慰でも、満足できる程度に快感を貪りたい。目を瞑って、想像する。わたしが、マスターに、乱暴に使われることを。我慢してただけあって、身体の中がとろけていくようだ。
昔、オナホにされちゃった時はすごかったなぁ。全身が一気に弾けるみたいだった。まず、かぁっと身体が熱くなって、じわじわ溶けていくみたいな感じで。ちょうど、今みたいに。……? あれ?
目を開けてみる。下腹部がオレンジ色に染まってる。目を疑う。
「えっ⁉︎」
これって。これって、もしかして。全身が舐めまわされてるみたいに、ぞくぞくしてくる。オレンジ色が、わたしの身体を登ってくる。あの時のことを思い出して、それと症状が同じだと認識する。
「な、なんで⁉︎」
思わず立ち上がろうとして、バランスを崩す。風呂場のタイルに尻もちを着く。シャワーヘッドが挿いっているまま。
「おぐっ⁉︎」
ずぶり、と音がした。脳天まで衝撃が突き抜け、達してしまう。そんな場合ではないのに。身体ががくがく震えて、体液が噴き出す。わたしの意思なんか関係なしに。
歯をくいしばってお腹のあたりをみると、普通では入らないような深いところ——おへその下あたりまでシャワーヘッドは挿入っているのが、オレンジ色の肌越しに確認できた。そして、それがまだお湯を出しているのも。このまま小さくなったらどうなるか考えて、青ざめる。
「お、お湯っ! 止めなきゃ!」
蛇口に手をかけて。かくりと力が抜ける。そのまま体重が乗っていたせいで、蛇口は開く方へ捻られてしまう。
そして、身体の中で、吹き出したお湯が暴れまわる。
「————っ‼︎⁉︎ うあ゛あ゛っ‼︎」
昔オモチャにされたとき、伸ばされたり、体内(ナカ)を刺激される感覚が、全て気持ち良さに置き換えられていたようだった。それが今、最悪なかたちで作用してしまう。
でたらめな快感が、わたしを襲う。苦しいのに、それが気持ちよくて、腰が砕けてしまう。ゴムになったお腹が膨らんでいる。妊婦みたいに、ぼてっとして、お腹の中でお湯が波打ってる。肌色の部分がどんどんオレンジ色に染まっていき、最後には水風船にされてしまう。もがこうとして、手足がもう萎んで身体にくっついていることに気がつく。文字通り手も足もでない。この後どうなるのか思い出して、身体を捻ってシャワーをひりだそうとする。その動作でいっそう気持ちよくなって。イきたくないのにイって。負の連鎖だった。助けて。誰か。
「————‼︎」
救いを求めようにも、声が出ない。もう完全に肌色の部分がなくなってしまったんだ。ダメだ。ダメだダメだ!
シャワーヘッドが膨らんでいくような気がした。逆だ。わたしが小さくなっているんだ。裂け目のサイズはそのままに、身体の全てが縮んでいく。押しつぶされるみたいな感覚がある。空洞になった喉の奥から、ごぶ、と呻き声に似た音が漏れた。
わたしの穴が、ずんずんと身体を突き進んで、わたしを崩していく。おへそを通って胸の奥を過ぎ、喉を超え、頭の底まで進んでくる。気持ちいいって感じる神経に直接電流を流されてるみたい。すぐにショートして、目の前が真っ白になって。それでも水流は収まらず、電流を流し続ける。身体の感覚が麻痺して、快感しか感じられなくなる。依然としてお湯は流れ込んできていて、身体は歪な球体へ膨らんでいく。
壊れる。壊れちゃう。
鏡に、ぱんぱんに膨らんだゴム風船が、シャワーノズルの先っぽにくっついているのが映ってる。あれが、わたしだ。わたしが小さいとき、蛇口に水風船をくっつけて、限界まで膨らませて遊んだことがある。あの後たしか、破裂して、粉々になって、ゴミ箱に。それが、今のわたしで。何の意味もなく、無様に。こんなところで。ゴミみたいに。ああ、それって。それって!
——瞬間、身体の穴という穴からお湯が噴き出した。
圧に負けて、全ての穴がつながったようだった。口も鼻も。お尻の穴も、尿道も。おへそも、胸も。全部。
身体の内側を擦られるような感覚に、意識を手放して、無理矢理起こされて。それを、何度も繰り返した。鏡に映る自分を見るたび、その姿は萎んでいった。
膣から注ぎ込まれる水の量と、噴き出ていく水の量が同じになったとき、わたしはシャワーヘッドの形に変形した、ゴムの塊に成り果てていた。
ただただ、押し付けられる快感に身を委ねるだけの存在に。
あー……。
あー……。
気持ちいー…。
あ゛ー……。
噴き出るお湯が、ねばねばとぬめりを帯びてくる。わたしの体液だ、きっと。通りが悪くなったせいで、また膨らんでく。あったかい。気持ちいい。
ふと、何故だか彼の顔が思い浮かぶ。少し悲しくなって、けれども、それすら気持ちよさにかき消されてしまった。
わたし、どうなるんだろう。どろりとした涙が、ゴム製の頬を伝う。
その時だった。浴室の扉がゆっくりと開いた。
◆
「せんぱーい?」
ぼんやりと、薄い紫の髪が見えた。ゆかりちゃん、だろうか。意識が朦朧として、しっかり認識できない。なんにせよ、助けにきてくれたのだろうか。そう思った。
「いませんねー。それじゃー、私もお風呂入りますねぇー」
何か、ゆかりちゃんは言っているようだった。その声は明るいけれどもそれだけで、温度がない。冷たい声。それが、浴室に、お湯でいっぱいになってるわたしの頭の中に響いた。彼女がわたしを助けに来たわけではないことを、直感的に理解した。
「あはは、変な臭いがしますねー。換気扇回さなきゃ。お湯も出しっ放しだし」
彼女は、わたしを乱暴に掴んだ。それに、と言葉を続ける。
「おもちゃで遊んだら、片付けないと」
そのまま一気に、わたしをシャワーヘッドから引き抜いた。大きく震えると、ぼたぼたと、身体に溜まっていた液体が、膣口から溢れていく。その代わりに、浴室の蒸れた空気が、わたしの中に入ってくる。ぼんやりとした意識がだんだん輪郭を持って、はっきりとしてくる。彼女が何を言っているのか、聞き取れるくらいには。
今、わたしはゴム人形として、ゆかりちゃんの手におさまっている。改めてその事実を認識した。
そして、わたしがこうなっていることに、何故かゆかりちゃんは動揺していない様子だ。……この状況はおそらく彼女のせいだ、と確信した。
「なかなか水が抜けないですねー。えい」
その声とともに彼女の掌がわたしを握りつぶす。ぷちぷちと身体の中で泡が弾ける音がする。まだ内側に残っていた水が、ちょろちょろと抜けていく。さっきとはまた別の、満たされていく快感ではなくて、溜まっていた物を吐き出す、放尿に似た気持ちよさがあった。……身体の中が、再びうずうずしてくる。
「うわ、泡立ってる」
呟いた彼女の冷たい指が、両手の人差し指が、わたしの割れ目に突っ込まれる。次の瞬間、ぐいと、わたしの身体が内側に吸い込まれるような感覚に襲われた。そして、視界がオレンジ色になって。身体の中がすーすーする。
なにが起きたのか、理解が追いつかなかった。けれども、自分の内側が撫でられるような感触に、自分が今、どうなっているのかを理解した。恥ずかしさと倒錯感で死ぬほどくらくらする。
内側と外側を、入れ替えられたんだ。今、わたしは、いやらしい所を晒してる。
心が現状を受け入れるより先に、わたしの中身が、冷たい液体……水に直接晒される。驚き、痙攣するように、大きく震える。馬鹿にするように笑う声が聞こえた。
それから、指が、わたしの中のひだひだを、1つ1つなぞっていく。こんな形をしているんだと教えられているようで、惨めさに沸騰しそうだった。
「……すごいぬめぬめするんですけど」
……身体は正直、なんてよく言ったものだ。こんなにも無様な状態なのに、興奮して仕方なかった。自分でも情けないけど。
「洗わなきゃいけませんね」
結月ゆかりの指が、ひだひだのゴムチューブになったわたしを、ぎゅっと掴む。脊髄を舐め上げられたような感覚に、震えあがる。それ、ダメなやつだ。
彼女はごしごしと、わたしを水にさらしながら洗っていく。ゴムが擦れる音が不愉快だった。ひだの向きに沿って彼女の指が動けば、内臓が動くような感触に身悶えする。ひだを逆なでする方向に指が動けば、ぷちぷちと頭の中で何かが弾けて、バイブみたいに震えてしまう。その様子を見た彼女は、男性器みたいだとあざ笑う。
「いいことを思いつきました」
そう言って結月ゆかりは、手のひらでわたしを包み込む。そして、男の人のをそうするみたいに、しごきはじめる。
ゴムになった身体が、どろどろに溶けていくようだった。そうだったら、どれだけ楽だろうとも思った。自分のマゾヒスティックな面をこれほど恨めしいと思ったことはなかった。
与えられた刺激は、まるで男の人に犯されているような、そんな錯覚をわたしに与えた。
ひだがかき分けられる度に、マスターとした時のことを、幸せだった時のことを思い出して、それが彼女の手で、白く塗りつぶされていくような気がした。
「イきそうになるとひだがヒクヒク動くんですね? 面白いですねぇ」
どう足掻いても、身体は求めてしまう。深い快感を、もっと。もっと。あの時よりも。気持ちよくなりたい。自分の汚い所を見せつけられているみたいだ。彼との行為に満足できなかったわけじゃなくて。わたしは。ああ、そうだ。わたしは。
なんて、汚いオモチャなんだ。
「んふふ。そんなに震えて、撒き散らして。気持ち悪いですねぇ」
結月ゆかりは、指をかけて、私の表と裏を元に戻した。ふがいない心も、ゴムの身体も、もうだるんだるんに伸びきっていて、これ以上の行為には耐えられそうになかった。彼女の細めた目と、私の無機物になってしまった目が、合う。
……先に目をそらしたのは、私だった。もちろん、まばたきも出来ないし、動かせない。ただ、彼女の冷たい瞳に耐えられずに、逃げたいと思ってしまった。
ふと、彼女の右手に巨大な張り方が握られていることに気がついた。わたしが隠していたものと、よく似た色と形だった。柔らかくなった上で身体の穴にあれを埋めて、快感を貪るなどしていたことを思い出す。今から、あれをわたしに突き刺すのだろう。そう分かった。
「先輩。聞こえてるんでしょ?」
結月ゆかりは、悪戯っぽくわたしに笑いかけた。
「大好きでした。憧れてました。追いかけてました」
一瞬、声のトーンが落ちる。同時に、怒張が私の身体を埋め尽くす。
物理的に、入りきるわけがなかった。だから、身体は伸びていった。薄く。不細工な模様だけ残して。コンドームみたいに。
お尻も、お腹も、おへそも、胸も。全部、寸胴に。唯一顔だけは、張り型の形に合わせて三角錐状に引き伸ばされた。
「なんてね! んふふ、腑抜けの先輩には、その姿がお似合いです!」
穴の空いた、できそこないのコンドーム。笑いながら彼女は呟いた。できそこない、という単語がわたしの心をざっくりと抉った。ああ、その通りだ、とも思った。
彼女は自慰をしようとしているのか、秘部にわたしごと張り型をあてがった。どろどろによだれを垂らして、ぽっかりと口を開けているのが見えた。その奥には闇が漂っており、飲み込まれたらもう帰ってこれない気がした。
「終わったら、ティッシュにくるんで捨ててあげますね」
わたしの望み通り。そんな声が聞こえた。躊躇なく彼女は腰を下ろし、わたしを頭から呑み込んでゆく。かろうじて残っていた凹凸が、彼女の肉ひだを掻き分けて奥へと沈んでいく。深いところまで。
「あっ……あぁ……私は、今! 先輩を! あのグミ先輩を! な、膣内に! ああ、ああぁっ……!」
不細工なわたしに肉壁がきゅうきゅう吸い付いて、離さない。ぐちゃぐちゃにされてる。これも、望み通り。外側からも、内側からも、犯されている。
——助けて。
助けて、マスター。
……ああ、これは、きっと、悪い夢なんだ。
蠢く肉壁に、絶望を感じ取る。
夢。そう、夢。
身体が求めるがままに最後にもう1度だけ果てて、わたしは、考えるのをやめた。
つづく
- 2016/12/29(木) 13:14:29|
- その他形状変化
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