ネタバレをすると青葉は死ぬ
【版権 平面化 ブーブークッション化(?)】
「……着いちゃった」
見上げると、そこには『工廠』の文字が貼り付けられている。もう夜だからだろう、あたりは静まり返っていて、工廠の中から聞こえる物音が際立って聞こえる。
蒸し暑さの中に、鉄錆と汗が混ざった何とも言えない臭いが漂っている。お世辞にも良環境とは言い難いこんな所に常駐する物好きな輩は、二人しかいない。
一人は、工作艦明石。艤装のメンテナンス、開発を担当する、朗らかでさばさばした彼女だ。
そしてもう一人。……そのもう一人の方に頼みがあって、私は工廠まで足を運んだのだ。
軽巡洋艦、夕張。艦娘のメンテナンス、開発、改造、そして解体を担当する彼女だ。……懲罰房の番人で、処刑人だとか拷問吏だとか影で囁かれる、鎮守府きってのサイコパス。提督とケッコンしてるのをいいことに、夜な夜な職権を濫用していたいけな艦娘たちを拷問している、という噂だ。……事実、過去に不知火ちゃんや金剛さん、青葉や衣笠、弥生ちゃんが酷い目に遭わされた事を知っている。
やっぱりやめようかなぁ。気さくでいい人みたいなんだけどなぁ。青葉の新聞に、あの不知火ちゃんを泣かせたりしてるって書かれてたしなぁ。人は見かけによらないとは言うけど、まさか……。火のないところに煙は立たないし……。でも、他に相談できる人はいないし……。明石さんはどっちかっていうと艤装メインだし……。
——そうやって工廠の前で尻込みしていると、不意に扉が開いた。夕張さんか。慌てて反射的に身構えてしまう。
けれども中から出てきたのは、夕張さんでも、明石さんでもない、予想外の人物だった。
くせっ毛を後ろでまとめてポニーテールにした、肉付きの割に背の低めな重巡。
「あれっ、青葉じゃん」
「あ、た、大鳳さんですか。なんでここに?」
彼女は制服を着崩していて、何やらどっと疲れている様子だった。いつもはせわしなく動くポニーテールも、今日はどこかしおれている。
「いや、まあ、うん。青葉こそどうしてここに?」
「青葉はちょうど今、夕張さんにインタビューしてきたところなんですよ」
そう言って彼女は力なく笑ってみせる。……普段はうざったいぐらいのテンションなのだが、なんだか今は憔悴しているように見える。
「中で何があったの?」
「え、えっ⁉︎ いや、あー……まあいいじゃないですか! 」
あからさまに話をはぐらかされたので、これ以上は詮索しないことにする。青葉は続ける。
「それで、大鳳さんは明石さんに用があるんですか?」
「ん、ううん。違うよ」
突然の質問に、何も考えずに返してしまう。それからすぐ、図られたと気づく。
「ああじゃあ夕張さんに用事なんですね、夕張さんなら中にいますから! ささっ!」
そう言った青葉は工廠の扉を開いて、「おおーい、バリー! 大鳳ちゃんが用があるってー!」と叫んだ。唖然とする私。なんてことするんだと訴える間も無く、彼女は片手をあげて私に別れを告げる。
「それじゃ、大鳳さん! お腹とお尻の調子、よくなるといいですね!」
「えっ、なんで知ってるの⁉︎」
「記者はなんでも知ってるんです! じゃまた!」
「え、えぇーーっ⁉︎」
足早に去って行く青葉の背中を、呆然と見送ることしかできなかった。
……私が夕張さんにお腹とお尻の調子を治してもらいに来た、ってことを知った上で『大鳳さんは明石さんに用があるんですか?』なんて尋ねたんだ。私が夕張さんに会うか悩んでることも見抜かれた上で。
理解しても時すでに遅し。側にあったインターホンから夕張さんの声がする。
「入っていいよー」
◆
工廠の扉は冷たく、重たかった。中から溢れたぬるい空気が私の身体を包む。一瞬躊躇して、けれども意を決して、私は中へと入っていった。
中は独特の臭い……悪臭とまでは言わないが、あまり好きではない臭いが満ちており、それから少し埃っぽい。
鋼を打つ音や妖精さんたちの話し声、息遣いは活気だっていて、夕張さんがどこにいるのか気配が感じ取れない。
「夕張さーん?」
肝心の彼女の姿が見えないので名前を呼んでみる。すると、隅の方から返事がかえってくる。
「こっちこっちー!」
声のする方へ向かうと、そこには緑色のつなぎ姿で首にタオルをかけた、まるで工事現場の作業員のような格好の夕張さんがいた。椅子に座った彼女は設計図を広げ、妖精さんたちに指示を出しているようだった。
私の姿を見つけると、夕張さんは気さくな笑顔で会釈をした。それから私の話したい事を察したのか、妖精さんたちに離れて作業をしているように伝えた。ありがたい気遣いだった。
「やあ、大鳳ちゃん。どったの?」
パイプ椅子を立てて座るよう勧めながら、夕張さんは私に質問する。
私の方が見かけの歳は上なのに、『ちゃん』扱いだ。少しぐらい文句でも言ってやろうか。けれどもハイライトのない、暗く濁った瞳に見据えられて、思わず萎縮してしまう。しんだ深海棲艦の目みたい。本当にこの人は軽巡なんだろうか。
「あの、今日は夕張さんに折り入って頼みがあって……」
「うんうん、どうしたの? ああそうだ、お茶でも出そうか?」
「いや、いいです」
埃っぽいですし、などとは口が裂けても言えそうになかった。さて、それで。なんと言えばいいのか……。
「身体のどこが悪いの?」
言いよどんでいると、夕張さんがすぱんと単刀直入に聞いてくる。きまりが悪くなって、苦笑いをして取り繕う。
「話が早くて助かります」
「私を訪ねるなんて、それくらいしかないからねぇ。あぁ、あとは青葉の取材かな。んでんで、それで?」
夕張さんはどこからともなくカルテ?のような資料を取り出した。さしずめ艦娘のお医者さん、といったところだろうか。
……そうは言っても、言いにくいことには変わりないけど。
少なからずためらって、それから勇気を出して打ち明ける。
「ここだけの話、最近、お腹の通りが悪くて」
——そうなのだ。最近、お腹の調子があまりよくなく、緩くなったり、出なくなったりを繰り返している。しっかりトレーニングやストレッチもしているし、睡眠時間も確保しているし、食べるものにも気を遣っているのだが。
……正直、前回の出撃ではお腹の具合があまりにも悪く、普段通りに動くことすらできなかったのだ。おかげで被弾もしてしまったし、漏らしかけたしで、良い所がまるでなかった。
市販の薬を飲んだり、暖かくしたりと出来ることは全てやってる、つもりなのに。どうにかしたい。もう、なりふりなど構っていられない。そうだ。
「……大変恥ずかしい話なんですが。いや、体調管理も自分の仕事だし、それに、腹痛のせいにするのも卑怯、かも、しれませんが」
——何やってるんだろう、私。告白してるうちに情けなくなってきた。もっとしっかりしないと。そう思うのに身体は辛くなって、だんだん前を向いてるのもしんどくなってきて、俯いてしまう。背中が汗ばんでくるのを感じる。不甲斐なさが滲み出ているようだ。
「大丈夫だよ」
そんな私の手を、夕張さんは優しく包んででくれた。錆と埃に汚れているのに、不思議と嫌悪感は抱かない。
私が顔をあげると、彼女は目を細めて大きく頷いた。大鳳ちゃんは頑張り屋だもんね、そういうのすごく辛いよね、と共感してくれる。……ちょっと感情が溢れそうになって、鼻の奥がつんとする。
「言いにくい悩みもあるよね。大丈夫。大船に乗ったつもりで、私に任せて」
「は、はい」
大丈夫、大丈夫。彼女はゆっくりと、何度も繰り返す。言葉が私の中へ、すうっと溶けるように入ってくる。固く縮んだ心が、柔らかさを取り戻していく。脂汗はいつの間にか止まっていた。口の中で、私は繰り返す。
「大丈夫……」
「うん、大丈夫だよ」
彼女は優しく笑うと、きゅっと私の手を握った。
「まあ、恥ずかしがることないって。君を建造するときだって、頭のてっぺんから爪先までチェックしたのは私なんだから」
もちろん、お腹の中だって。そう囁いた。私が顔をしかめると、彼女は笑って立ち上がる。
「ついてきて」
彼女は返事も待たずに、工廠の奥へ入っていく。唾をのみこんで、言われるままに私はついていく。
◆
数分後、私たちの目の前にあったのは大きな長方形の台と、その上に吊られた金属の箱だった。横には物々しい機械が括り付けられており、それらを操作するのだろうと予想できる。
「何ですか、この機械?」
「プレス機だよ」
嫌な予感がした。聞かずにはいられない。
「プレス機って……何を潰すんですか?」
「そりゃ大鳳ちゃんを潰すのよ」
夕張さんはあけすけに言うと、ぽんぽんと得意げに機械を叩いた。
予感が的中してしまい、私の身体は自然とこわばる。潰す? 私を? ちょっと何を言っているのか分からない。ふと、不知火や青葉、衣笠たちが酷い目に遭ったことを思い出してしまう。普段の彼女たちからは想像もつかないほどくしゃくしゃになっていた。色んな意味で。
……私が、その仲間入りをするの?
顔を青くする私を見てか、夕張さんは苦笑して付け加える。
「そんな怖い顔しないでって。これは懲罰ってわけじゃないから、酷くはしないから」
そんなこと言われても、信じられるわけがないだろう。訝しんでまなざしを向けると、彼女は肩を竦めた。
「他の子だってやってるよ?」
「えっ」
それって、誰が。夕張さんは得意げに鼻を鳴らす。私の心なんぞ見透かしているんだと言わんばかりだ。
「ふふ、みんな同じ反応をするね。でもね、誰がやったかは言わない約束なの」
「そんなの、信じられるわけ……」
「信じなくてもいいの。でもね、大鳳ちゃん」
そこまで言うと、彼女は私の顔を覗き込む。逆光で暗くなった彼女の顔の中、二つの瞳が冷たく輝いている。
「夕張さんはね、自分の腕に自信を持ってるの。その腕をくだらない嘘で汚すような真似はしたくないわけ」
口調こそ軽いが、目は笑っていない。普段の飄々とした仮面の下の素顔を見た様な気がして、どきりとする。放たれる言葉はどことなく強く、鋭い。懲罰や解体などの『仕事』をする時、彼女はこんな雰囲気を纏うのだと察した。蛇に睨まれた蛙のように、私は何も言えなくなってしまう。……やっぱり、本当に軽巡なんだろうか。
「出来ることなら何だって協力するよ。何だって。…………まあ、手段は選ばないけどね!」
それから彼女は破顔して、私の肩をぽんと叩く。先ほど感じた、殺気にも似た冷え切った緊張感は消えていた。いつもの、食堂で見る優しくて気さくな夕張さんだ。
「それで、やるんでしょ?」
有無を言わせない笑顔を浮かべた彼女の様子に、なるほどサイコパスだ、と一人納得する。
「ちょっとだけ質問させてください」
「はいはい、どうぞ」
「私を潰すって、その、解体的な……」
「あー違う違う! 死ぬとか痛いとかそういうのはないから!……ただちょっと恥ずかしいかもだけど」
「それじゃ、潰してどうするんですか?」
「そうだねぇ、うーん。ブーブークッションってあるじゃん」
「……は?」
おおよそこの場に似つかわしくない、ふざけた単語。ブーブークッションって言ったよね、今?
幼い頃、そういった玩具に触れたことはある。座布団の下に膨らませたそれを置いておいて、人が座ると、その空気が抜ける。その空気が抜ける音が放屁する音によく似ていて、座った人が驚いてしまう。悪戯に使う玩具だ。
「そうそう、それそれ」
私が認識をあらためると、夕張さんは頷いた。
「大鳳ちゃんには、ブーブークッションみたいになってもらおうかと」
「ちょっと言ってる意味がよく分からないです」
率直な感想を述べる。彼女は右手を頬にあて、考えるそぶりを見せた。
「いや、だからさ。今は、詰まりがちなわけじゃん。だから、何回か空気を出し入れしてお腹の構造を柔らかくすれば、通りもよくなるから」
「それって、つまり……。私をクッションみたいに潰して、それで、その、空気を」
「飲み込みが早いね」
褒められてる気がしない。言ってることはわかるけど、理解できないし、どんな感覚なのか想像もできないし、したくもない。
「……他の方法はないんですか?」
「そうだね、無くはないんだけど」
思わず身を乗り出す。夕張さんはためらいがちに続ける。
「お腹を切り開いて悪い部分を切って取り出して、修復材を」
「あの」
「そういえば、深海機雷の触手が健康にいいって実験結果があるから、それでも」
「クッションでいいです」
絶望しかなかった。元気出しなよ、って夕張さんは肩を叩いてくる。振り払ってやりたい。
「まあ、どんな恥ずかしい姿になっても、私は見慣れてるし、大丈夫大丈夫!」
「……夕張さんって、デリカシーが無いんですね」
「えっ、知らなかったの?」
心底驚いたような表情をする夕張さんに、呆れてため息がこぼれた。
「よく考えたら、知ってました」
だよね、と彼女はへらへら笑う。
「私に頼んだのは大鳳ちゃんだからね。……んで、それは正しいよ。私を信用するだけで、身体の悩みは全部解決しちゃうんだから」
「…………」
「私は口が固いから、安心してよ」
夕張さんは片眉を上げる。それは役得を一人占めしたいだけなんじゃないんですか、と喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
夕張さんは機械のパネルに触れる。軋む金属音と共に、プレス機はその口を開けた。
「どうぞ?」
私は、断れなかった。
その機械をまじまじと見つめてみる。黒光りするそれはまるで奥歯のようで、私など容易く噛み潰してしまえるだけの質量が見てとれた。
身体の調子を相談しに来ただけなのに、もう日常には戻れないような、色々なものを失ってしまいそうな気がする。……手術前の人って、こんな気分だったんだ。
「大丈夫?」
彼女はわざとらしく聞いてくる。選択の余地なんてなかった。
「大丈夫、です」
◆
「あの、この体勢すごく恥ずかしいんですが」
今の私は、仰向けに寝た状態から膝を曲げて開脚した、天井に向けてお尻を突き出した格好になっている。腕で開いた足を支えてる。スカートがひっくり返って、スパッツとその下のショーツを見せつけているみたいで恥ずかしい。
「服は脱いだほうがいいと思うよ?」
「絶対いやです」
「ならそれでもいいけど」
今まで外堀を埋めてきたわりに、意外と食い下がらなかった。やはり患者ってことだから丁寧に扱ってくれるのだろうか。それとも、何か別の理由でもあるのだろうか。……まあ、脱がなくていいなら越したことはないが。
「潰すよ」
少し興奮した様子で、彼女は言った。私は、黙って頷いた。
がこん、と重たい音がした。それから、ギアが駆動する、エスカレーターみたいな音がする。嫌な汗が吹き出してきた。
私、何やってるんだろう。本当に大丈夫なの。相談してよかったの。他に方法はあったんじゃないの。我慢できなかったの。
いろんな後悔が襲いかかってきて、急に不安になってくる。けれど、大丈夫だ、大丈夫だと呟いて全部ねじ伏せる。根拠なんてないけど、決断したのは私なんだから、大丈夫のはずだ。
まず、1番高いところにあったお尻が、プレス機の歯に当たった。ひんやりしてる。まるで身体が粘土になったみたいに、プレス機が降りてくるにつれて私の身体は厚みを失っていく。
お尻、太もも、膝。どんどん潰されていく。
「大きく息を吸ってー、吐いてー」
その言葉に従って、肺の中の空気をめいいっぱい吸い込んで、空になるまで吐き出す。視界が真っ暗になる。プレス機が鼻先に当たる。おでこ。頬、口。……口が半開きになったまま、閉じられなくなってしまった。失敗した。
全身が抱きしめられているかのような圧迫感がある。その圧はどんどん強くなっていって、私の身体は耐えられず潰れていく。縦の厚みがなくなっていく代わりに、横の面積が広がっていく。着ていた服がきつくなって、苦しい。なるほど、脱いだ方がいいってこういうことか。服の下の、ブラ紐やショーツが食い込んでくる。スパッツもぱつんぱつんだ。ちょっと苦しい。というか、どこまで潰されるんだ、私は。機械はまだ止まる気配を見せない。
伸び広がった身体のパーツ同士が当たる感触がある。太ももとあばらのあたりだったり、頬と肩だったり、本来ならくっつくはずがない所だ。
こんな訳のわからない状態になってるのに、なんともない。服が食い込むのは苦しいけど。
全身、至る所に均等に圧力を感じる。不思議な感覚だ。
やがて、ギアが止まる金属音がして、しばらく無音が続く。それから、真っ暗だった視界に光が差す。プレス機の歯が上がり、夕張さんの顔が見える。ようやく終わったんだ。
私を見下ろす夕張さんの距離が、なんだか遠い。潰れたぶんだけ離れたのだろうか。彼女は私を拾おうと手を伸ばしてくる。
……あれ、私、なんだか縮んでないか?
実際、縮んでいるようだった。プレス機からぺりぺりと剥がされて、彼女の両手で抱えられた。そのサイズ感から、パイプ椅子の座面くらいの大きさになってると推測できた。
いよいよもって自分の身体の構造が分からない。
それから夕張さんは、私を机……作業台だろうか? の上に乗せて、始めるよ、と呟いた。喋れないから、長い瞬きを一回した。すると、思い出したように彼女は言った。
「ああ、そういえば。今どんな格好になってるのか分からなかったよね」
それから、どこからともなく手鏡を取り出した。……なんとなく、見ない方がいいと勘づいていたが、それでも見てしまった。
「はい、今の格好はこんな感じだよ」
そう言って差し出された先に映っていたのは、変わり果てた私の姿だった。
お尻をあげた体勢で潰されたせいで、歪な円状のシルエットになっている。円の三分の一から上から顔があって、次に胸があって、股間部がある。隠すべき所を全て晒け出してるかたちだ。
(——っ!!!)
紐で縛られたチャーシューを見て、肉感的だと思ったことがある。縛ることでくびれができて、それがなんだかエロチックに見える。
今の私は、まさにそれだった。全体的に服が身体を締め付けていて、それによって肉感的な曲線がつくられていた。胸の横に伸び広がったふとももがあって、それに手が添えられている。もともと控えめだった胸の谷間は皆無になって、ぴんと張った服からブラがはみ出てしまう。見せつけるように開いた股間部のスパッツは肌が透けるほどに伸びていて、内側のショーツが食い込んでいるのが丸見えだ。……ブラもショーツも、身体に食い込んだそれらが乳首や陰部の微妙な凹凸を拾って強調していて、まったく下着としての機能を果たしていない。
夕張さんの手が、私のお尻のあたりに触れる。鏡の中の私は、顔を赤くする。それを見てか、夕張さんは言う。
「あー、今日は治療だからね」
残念そうに言わないでほしい。こっちが痴女みたいじゃないか。
目で訴えても、全く無視されてしまう。さらに、ご丁寧に鏡をアームで固定して、私が自身の姿を確認できるようにまでしてくる。いい性格してるなぁ! 見たくないのに、こんなことされたらつい見ちゃうじゃないか。
私が私を視姦して愕然としていると、いつのまにか、今度はハサミが夕張さんの手に握られていた。
「切るよー」
ばつん、とゴムが弾けるような音がした。それから直後、お尻の穴周りの締め付けが緩くなった。夕張さんがスパッツを切ったんだ。
……考えてなかった。太ももやお尻のお肉が締め付けられてるところに、穴が開いたらどうなるのか。結果、ぺしゃんこになった身体のうち、開いた穴周りだけぷっくりと膨らんで、押し広がったお尻の穴が強調されるような姿になってしまった。
(〜〜ッ‼︎)
「だから脱いだほうがいいって言ったじゃん」
だったら初めからこうなるって言ってよ! いや、逆にこうなるって知ってたから何も言わなかったのか。私を辱めるために。
先ほどとなんら変わらない笑顔の夕張さんを見て、寒気がする。
「いじるねー」
(ちょっ⁉︎)
添えられた夕張さんの指は冷たくて、変な声が出る。それからノータイムでお尻の穴周りに指が引っ掛けられ、軽く穴を広げられる。
「あー、力入れてすぼめようとしても意味ないよ」
「〜〜!!」
こ、こんなの聞いてない!
無理矢理ぱくぱく閉じたり開けたりさせられて、頭がどうにかなりそうだった。
夕張さんは私の具合を確かめ終えたようで、今度はストローを取り出した。……まさか、と思った時には挿入されていた。座薬、という単語が脳裏を過る。
奥の方までぐいぐいと挿入される。痛い。それに、ひどい異物感だ。鏡を見ると、剥き出しの肛門から白いストローを生やしている私がいて、恥ずかしくてたまらない。本当になんなんだ、これ!
目を白黒させていると、笑い声が降ってくる。
「大丈夫だって。それじゃあ空気を入れるから、頑張ってね」
夕張さんはストローを加えて、ふーっと息を吹き込んでくる。そのストローは、私のお尻につながっていて。つまり、私の中に彼女の息が入ってくる。
ぺしゃんこになったと思ったら、次は膨らまされるのか。生暖かい夕張さんの息が、私の中に、入って、きて。
「ぅぁ……」
だんだんお腹が苦しくなってきて、ついにははちきれそうになる。身体が空気で張り詰めてる。出したい。けれど、いまここで出すってつまり、目の前でおならするってことで。……そんな残酷なことをさせるのか。……でも、どのみち空気は吐き出さなきゃいけないし。
やがて、お尻の穴からストローが引っこ抜かれる。同時に、空気をすかしつつ吐き出そうとして、気がつく。
自分の意思じゃ排泄できなくなってる。それはつまり、誰かの力を借りなければいけないってことで。
それで、今の私は、確か……。
私の居場所が、作業台の上から椅子の上へと移される。
確信する。抵抗しようにも、手足はぺしゃんこで、お腹だけしか膨れてないこんな姿をじゃ身動き1つとれない。身体を揺らして椅子の上から逃げることも難しそうだ。
どうしよう。焦って見上げると、そこにはもう夕張さんのお尻が迫ってきていた。
(う、嘘——)
全体重が、私の上にかかる。
(〜〜‼︎)
出口に殺到した空気が、私の努力なんておかまいなしに肛門をこじ開ける。穴がめくれ上がるみたいにぽっかり開いて、お尻からだばだばと失禁するような感覚があった。おおよそ乙女にあるまじき濁った音が、私の中から溢れていく。
張り詰めていた身体の中が空っぽになっていくにつれて、排泄欲が満たされて気持ちよくなっていく。安堵にも似た吐息が口から吐き出される。
一度空気が抜け始めたら止まらなかった。だんだん空気の排泄も穏やかになってきて心に余裕ができ始める。同時に、かつてないほどのひどい羞恥が私に襲いかかってくる。丸出しのぺしゃんこにされて、膨らませられて、無理やりお尻から吐き出させられて。こんなのって、あんまりじゃないか。
ある程度空気を吐きだし、排泄も止まったところで夕張さんが顔を見せる。文句の一つでも言ってやろうと、睨みつけてやる。
「とりあえず、まだ身体の中に空気が残ってるから。それを出しちゃうね」
唖然とする。彼女は私の感情なんてまるで何も気にしていないようだった。
夕張さんの手が私の頭を掴むと、お腹の所で2つに折る。ちょうど陰部のあたりが顔に当たる。それから、ぎゅうっと搾られる。レトルトの中身をひねり出すみたいに、私の膨らみが、間抜けな音を立ててお尻の穴から出て行く。
身体に折り目がつくんじゃないか、というほどしっかり圧をかけられて、ようやく開かれた。……本当に、ようやくだ。ようやく、終わったんだ。こんな馬鹿馬鹿しいことが。でも、これで体調が良くなるなら、安いものだ。死ぬほど恥ずかしいし色んな物を失ったけど。けど、これからは今までみたいに腹痛に苦しまされることがなくなるんだ。
——そう思ってる私のお尻に、再びストローが挿入された。
えっ。
それからまた、生暖かい息が私の中を満たしていく。
まだ終わりじゃない。そう気がついた時、私の顔から血の気が引いていった。
酷かったのは、1度目の時よりも明らかに多く空気が入れられたこと。お腹がはちきれそうになって、苦しくて。また、お尻で潰されて、無理やり空気を搾られて。
それから息をつく間も無く、3度目が始められる。また、注入される空気の量が増えている。そこで、鏡を見て気がつく。私の身体が、どんどん伸びるようになってる。初めはぺしゃんこになった状態のまま、無理やりお腹に厚みを持たせた感じだったんだけど、今は何となく惰球に近い、お腹だけじゃなくて身体全体が膨れてるみたいになってる。つまり、本当に、ブーブークッションみたいに……。
「よいしょ」
(〜〜⁉︎⁉︎)
その声と共に、夕張さんのお尻に潰されて、空気を吐きだす。な、何回やるつもりなんだ、この人は。おかしくなってしまいそうだ。
それから、また夕張さんが残った空気を搾り出そうとした時だった。彼女の指が、私の陰裂に触れた。
にちっ……。
そんな、水音がした。思考がフリーズして、次の瞬間、顔に血が集まっていく。お臍の下あたりが、ぺしゃんこになってひしゃげた陰裂の奥が、きゅうっと疼く。それを、自覚してしまった。
(わ、わあああ‼︎)
違うんだ。違う。ちょっと刺激があったから。生理反応だから。そんな言葉が頭の中で暴れまわって、沸騰したみたいになる。
「ああ、気にしないでいいよ」
そんなの、無理に決まってる‼︎
もうやだ、もうやだよ……!
「大丈夫、大丈夫だから」
そう優しい笑顔で言う、夕張さんの指にはストロー。今更気づいた。優しい笑顔っていうか、ご機嫌な笑顔なんだ。
それから、何回繰り返されたか分からない。ただ言えるのは、ほんの数回なんかではなくて、ちっとも大丈夫じゃなかったってことだ。
「ぅ……ゃ……」
辛いものを食べた次の日みたいにお尻の穴が熱くて、じんじんする。お尻の皺という皺が全て伸びきってしまったんじゃないだろうか。
同時に、陰部の疼きも加熱していることに気づいてしまう。
(うう、や、やだぁ……)
夕張さんの手が再び私を折り畳んで、空気の残りを絞り出す。その際に、顔と秘裂が接触して、ソコがぐしゃぐしゃになっていることを思い知らされる。
お尻で、感じてしまってる。
しかも、こんな、空気を入れられては排泄するなんていう、変態的な行為で。
そこまで考えて、私の思考は中断される。夕張さんの指が、お尻の中に突っ込まれたのだ。
(ちょっ!?!?)
人差し指と、中指。輪ゴムを伸ばすみたいに、私の穴を広げては具合を確かめてる。手袋をしているのだろうか、ごわごわした感触があって叫びたくなる。
たまったもんじゃなかった。背骨がぞわっとして、内臓が縮み上がる。そんな私なんかおかまいなしに、ずぶずぶとお尻の穴に指を入れては、穴の中を引っ掻き回してる。随分と奥深くまで突っ込まれているみたいだ。
(や、あっ! やめ、やめて!)
「うーん、まだまだ固いね」
彼女はそう呟くと、指を引っこ抜く。粘ついた液体が、手袋をした手の、中指の根元まで纏わり付いているのが見えた。湯気がたっているのも分かり、自分の中の体温を想像すると、この上ない恥辱を受けている気分だった。
「あと10回くらいかな?」
泣きそうな私に、残酷な言葉が追い打ちをかけた。夕張さんはつらつらと今の状況を説明してくる。私が感じてるって分かってるだろうに、そういうことは一切省いて、何も言わなかった。それが逆に、これは治療なんだから、感じてるお前が悪いんだ、変態なんだ。そう言われている気がした。
また、空気を入れて、潰されて、お尻から吐き出して。絶対、10回じゃ足りない。数えたくない。その度に疼きは大きくなっていくのに、一向にそれは解消されなくて、焦らされてるみたいで、とてもつらくて。
……イかせてほしい。変態でもブーブークッションでもなんでもいい。乳首や陰核が勃起してるのが自分でもわかる。それを少しでも弄ってくれれば、楽になれるのに。もうぐしょぐしょになってるのに。夕張さんはちっともそのことについて触れてくれない。淡々と、まるで料理するみたいに手順を進めてく。
なんども空気を出し入れされたせいで、私の身体はくたびれた風船みたいになっていた。
ストローから空気を抽送されて、膨らんで。鏡に映った私の姿は、艦娘なんかじゃない、小さい頃に遊んだブーブークッションそのものだった。身体全体が惰球になっていて、お尻の穴だけがぴょんとタグのように飛び出している。
限界だった。色々と。
壊れてしまう。
夕張さんのお尻が迫ってきて、私を捻り潰す。空気が、穴に殺到する。
あっ。
耐え切れなかった。お尻に潰されると同時に、今まで耐えてきたものが一気に、ダムが壊れるみたいに漏れてしまった。
(————ッッ‼︎‼︎‼︎)
脳髄が焼けるようだった。身体中の筋肉がピンと強張って、快感にがくがく震える。今まで感じた事がないほど深くて強い振動に、視界は真っ白に染まり、声にならない声が半開きの口から零れる。スパッツや下着なんてないかのように、勢いよく飛沫が上がる。漏れる、と分かっても止められない。だらしなく、お尻と同時に尿道口からも失禁してしまう。快感の余韻はひどく長く、下半身も脳みそもどろどろにとろけてしまう。
羞恥心はもう、振り切れてしまっていた。
どうでもよかった。
「あとは、修復材を流し込んで、吐き出せば終わりだから」
夕張さんの手には、シリンジが握られている。
ああ、そうですか。
放心する私の中に、じんわり温かい修復材が入ってくる。
ぱんぱんの水風船になった後、そのまま破裂してしまえたら、どれだけ楽だろう。
◆
「やあ。経過報告をお願いね」
数日が経った。元に戻った時は腰が砕けてろくに歩くことすらできなかったけど、それもその日のうちだけで、翌日にはすっかり元気になっていた。
そしてそれからというもの、私の悩みだったお腹の不調子はすっかり治ったのだった。……あの治療の何がよかったのかはさっぱりわからないが、まあ夕張さんの腕が確かだった、ということだろうか。納得いかないが。
「どう? 今日も出撃してたみたいじゃん」
「はい、あれから調子も良くて……」
椅子に座るように勧められたので腰を下ろす。と、お尻の下から放屁したみたいな音が出る。私はしてないのに、だ。何が起こったのか分からずに戸惑って、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あっ、えっ⁉︎ こ、これは」
「あー大丈夫大丈夫。大鳳ちゃんがしたわけじゃないって分かってるから」
「えっ」
慌ててお尻の下に手をやると、そこに何かある事に気がついた。ぐにゃりとへたった感触だ。腰を浮かせて取り出すと、黒い袋に覆われてる、ゴムのような——。
そこまで考えて、中に何があるのか理解してしまう。夕張さんが、呆然とする私の手からその袋を受け取ると、笑いながら 『中身』を取り出した。
「いやー、また秘密をすっぱ抜こうとしたからね」
一見して肌色のゴムに見える円形のそれには顔や胸の形跡があって、元は人間だったということが容易に想像できた。そして、かつて私が同じ姿にされたのだと気づく。
ブーブークッションにされたんだ。……私と違い、彼女は服を剥かれており、乳首や淫裂、そしてだらしなくのび広がったお尻の穴を丸出しにしていた。離れているのにわかるほど陰芽や乳首はぷっくり勃起していて、また股間部は体液でぬらぬら光っている。
くせっ毛をまとめたポニーテールは乱れて肌に張り付いており、お風呂上がりのようになっていた。
夕張さんは彼女を左右に引っ張るなど手慰みにしながら言う。
「ダメって言ってるのに、困っちゃうよね、青葉ぁ?」
引っ張られる度に、彼女の敏感な部分がヒクついて、ひどく感じていることを晒している。その表情は快感に蕩けきっており、目頭からは涙が浮かんでいた。だらしなく広がった口から、途切れ途切れに吐息とも喘ぎ声ともつかない音が漏れている。青葉の呼吸と震えは同期しているようで、夕張さんがそれを引っ張ると、ひゅうひゅう鳴きながらびくりと震えた。
「夕張さん、それって……」
「お察しの通り、懲罰だよ」
私にそうしたように、夕張さんは青葉の中に残っていた空気を出口に向けて押しだす。括約筋はもうその役割を果たしてないようで、なんの抵抗も無いようだった。ぷぴ、と情け無い音を立てると、泡立った腸液とともに空気が絞り出された。
面白いでしょ、と夕張さんはストローを取り出して、青葉のお尻の穴に差し込むと、息を吹き込む。膨らんでいく青葉と目があった、気がする。助けを求めてるようにも、快感に溺れて何も考えられないようにも見えた。青葉がある程度膨らんだところで、夕張さんは両手で青葉を叩き潰した。
「————っ!!」
青葉の空気穴が激しく震える。だらしない音が響く。股間部から弾けるようにして飛沫が跳ねる。それはお尻の穴から出る、生理的な腸液だけじゃなくて、粘ついて白く澱んだ愛液も含んでいた。
——お尻の穴で、絶頂させられてるんだ。
そう思うと、あの時のことが脳裏に蘇り、少しぞくりとした。脳を焦がすような快感に震えた、あの時だ。……我に返ると、ぺしゃんこの青葉の淫裂から、しょろしょろと黄色い液体が溢れていた。
ばっちいね、夕張さんは笑うと、ぽいと側にあったバケツに『それ』を放り込んだ。
ふと私が青葉を包んでいた袋に目をやると、先ほど私が押しつぶした時に漏らしたのか、体液でぐしゃぐしゃになっていることに気がつく。鉄錆と汗の臭いに混じって、性の饐えた臭いがする気がする。
「うん、それで大鳳ちゃんの調子はどうなの?」
「……あっえっと! はい!」
夕張さんはなんでもないように話を続けるから、慌てて返事をする。身体の具合だとか、心の具合だとか。そういったことを聞かれた。
……集中できるはずがなかった。横目でちらりとバケツの中を見ると、青葉は自身の吐き出したカクテルに身を浸し、無様に震えていた。
——結局、工廠から出た時、私は何を話したのかさっぱり覚えていなかった。全部上の空だ。そりゃわそうだ。
やっぱり、夕張さんはサイコパスだった。
「ここは、私が来ていい場所じゃなかったんだ……」
そう呟いた。
けれども私の中には、またここを訪れることになるだろうという、じりじりと胸の奥を焦がすような予感があった。
……そんなわけないだろう、そう思って首を振る。
おへその下あたりが疼くような、そんな感じがした。
おしまい。
- 2017/05/08(月) 18:22:59|
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