2ntブログ

バケツと状態変化

プライド

そんな目で私を見ないでくれ

【状態変化 ぬいぐるみ化】
セントラルパークから並木通りを直進して15分。眼前にそびえ立つこの学校が、今日、まさに今から私が入学する城紋学園だ。

魔法学と科学の結晶とうたわれる日本最高峰の高校兼研究機関で、エリートの住処。私が夢見てきた場所でもある。

私が合格したのは、特進コース。役職は、風紀委員会。学外及び学内の治安維持、法務を職務とする委員会だ。合格倍率は50倍とも100倍とも言われてる。

……本当に私、合格したんだよね? 腕に通した白い腕章を見て、刺繍された風紀委員会の文字を何度も確認する。うん、夢じゃない。

「よしっ」

小さく拳を作り、気合いを入れる。ここから私の新しい生活が始まるんだ。決意を胸に、学内へ一歩を踏み出した。



校舎の中は染み1つないほどピカピカで、整備美化委員会がいかに腐心しているのかが見てとれた。窓から差し込む日差しが廊下のタイルに反射して、ちょっとまぶしい。

ここが憧れの学園で、私は今そこの生徒で。これから待ちに待った学園生活が始まるんだ。そう考えるだけで胸がおどる。いい気分だ。

さて、その学園生活の幕開けに、入学式に出席しなきゃいけないんだけど。

「えっと、入学式は第一講堂ってあるけど……」

ここ、どこだろう……。始まるのは10時。時計を見ると、もう9時45分。時間がない。風紀委員が入学初日から遅刻する、なんてとんでもないことなんじゃないか。背中を嫌な汗が伝う。

「え……と……えーっと……」

周りをきょろきょろしながら進んでも、ちっとも講堂に辿りつく気配がない。よくない、本当によくない。
そんな焦りのせいか、私は背後に近寄る人影に気がつかなかった。

「あの、ちょっといい?」
「はいっ!? まだ遅刻してないですよね大丈夫ですよねっ!?」

慌てて振り返ると、そこには少女が立っていた。背丈は私よりも一回り小さい、童顔の子だ。腰まで届く長いポニーテールと、アンダーリムの赤い眼鏡に自然と目がいく。それから、腕章には風紀委員会の文字が刻まれている。

あ、私と同じ委員会の子だ。

過剰に驚いてしまった私を見て、少し苦笑いをしている。恥ずかしい。
その少女は、私に話しかけてくる。柔らかい、けれども明るい声だった。

「えーっと、君も風紀委員会、だよね? 私の名前は霞ヶ浦 奈々(カスミガウラ ナナ)。多分だけど、私と同じ風紀委員会だよね?」
「は、はい! そうです! 新1年生の、丸ノ内 瑞葉(マルノウチ ミズハ)っていいます!」
「じゃあ同じだね! よろしく!」

差し出された手を握ると、彼女は朗らかに笑った。ぱあっと花が咲いたようなその様子から、私は同級生だと判断する。

「よろしくお願いします!」
「あはは、タメ語でいこうよ、瑞葉ちゃん」
「そ、そうだね! えっと……」
「奈々だよ」
「うん、奈々ちゃん」

そこまで言って、気がつく。これはもしかして、初めての友達なのではないか。
……あ、嬉しい。友達ができるかどうか、すごい不安だったから。学園生活のすべり出しとしては、好調なのかもしれない。

「それで奈々ちゃん、講堂の場所がわからないんだけど。分かったりする?」
「うん、知ってるよ。はい」

そう言って、奈々ちゃんは右手を振る。するとサラサラ光の粒子が集まって、目の前に小さな地図が現れた。マッピングの魔法だ。

「い、いつの間にマッピングしたの?」
「んふふ、ちょっとね」
「あとでそれ写させてくれない?」
「うん、じゃあ今送るよ。ほい」

そう言って彼女は私に向けてデータを転送してくる。つくづく魔法って便利だ。私もマッピングを使って、地図を開く。


「それで、今いるのがここだから、もう少し先だね」

地図上で赤い矢印が現在地を指しており、目的地の第一講堂が青く光っている。よし、間に合いそうだ。

「それじゃ、行こっか!」

彼女に案内されるがまま、私は講堂へと歩いていく。途中、いくつか軽く自己紹介をした。科学よりも魔法学の方が得意なこと。でも箒はお尻が痛くなるからあんまり好きじゃないこと。風紀委員会に入ったのは、皆を取りまとめる仕事に憧れていたからだということ。少しだけ、奈々ちゃんの事が分かったような気がした。

そうそう、鞄にはアップリケがいくつも刺繍されていて、ちょっとびっくりした。お姉ちゃんのお下がりだと聞いて、複雑な事情があるのだろう、尋ねるのをやめた。

「奈々ちゃんは魔法が得意なの?」
「いや、そんなに得意でもないよ。お情けで入学させてもらったようなもんだし」
「またまたー。そうは言うけどさ、特進コースじゃん」
「いや、本当に。物を動かすことくらいしか出来ないからさ」
「えぇー、嘘だぁ」

そう言う彼女の横顔は、それほど嘘でもなさそうだった。どこまで謙遜かは分かんないけど、本当に魔術も体術も勉学もできないのかな。……ひょっとして劣等生? 毎年数人はドロップアウトする、って聞いたことあるけど。だとしたら、ちょっと嫌だなぁ。不必要な情にほだされないようにしなきゃ。自分のことがおろそかにならない為にも。


「でも、一生懸命やっていくよ!」
「うん、頑張ろうね」

でも仮に奈々ちゃんが優秀じゃなかったとしても、初めての友達だし、優しくしてくれたんだから、仲良くしてあげないと。
いい友達になれるといいな。屈託のない笑顔を見せる彼女を眺めながら、そう思った。



しばらく歩いて、私たちは第一講堂に到着した。中は劇場のようになっており、やはりというか、既に新入生はほぼ全員着席しているようだった。私たちが入り口をくぐると、背後でゆっくり扉が閉まる。

「えっと……席は……」
「あっちが空いてるよ!」


そう言う奈々ちゃんに手を引かれて行ったのが、最前列の真ん中あたり。遅くに入ってきたのもあって、そんなところに座るのかと、バツが悪くなる。

「早く座れよ、お前らを待ってんだからさ」

そうぶっきらぼうに言ってきたのは、最前列真ん中、私たちの隣に座っている少女。ショートカットで、人を何人くらいか殺してそうな鋭い目つきをした、いかにも粗暴そうな子だ。彼女は私たちを品定めするように眺めると、続ける。

「お前らも風紀委員なんだろ? なのに初日から遅刻寸前に来るなんて、どうかしてるな」

……初対面の人に向かってこの子、すごいなぁ。あんまり関わりたくないかも。いくら私が時刻ギリギリに来たからと言って、そこまで言われるとムッとする。気を悪くした私の横で一方、奈々ちゃんはそんなに気にしてないようだった。「あはは、ごめんなさい」と軽く謝って席に座る。
まあ、確かにこんなところで言い争っても仕方ないし。私も黙って椅子に腰かけると、そのカンジの悪い奴はフンと鼻を鳴らした。

それから、いよいよ入学式が始まる。
はじまりの挨拶だったり、祝辞だったり、名簿の読み上げだったり。気がついたのは、こういう儀礼はどんな学校でも紋切りで同じなんだ、ということ。先生徒がたの機知に富んだ話は確かに面白いけど、形式は私が前いた学校と変わんないや。

「新入生宣誓。 新入生代表、斜歯 藤子(ハスバ フジコ)」

そう進行の声が響いたと同時に、横にいた短髪の少女が……さっきの粗暴そうな彼女が立ち上がる。驚く私。こいつが、新入生代表?

「はい」

背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を見据えて一定のペースで歩く様子は、どこか機械を思わせた。登壇すると、彼女は小さく息を吸い込み、話し始める。

「温かな春の日差しの中、芽吹き始めた草花までもが私たちを祝福しているようです。本日はこのような素晴らしい式を挙行していただき、心より深く御礼申し上げます」

それから、彼女はつらつらと挨拶の言葉を続けていく。愕然としたのは、そのどれもが先ほど私達をなじった時のような、喜怒哀楽といったような人間じみた感情が、まるで感じ取れなかったこと。本当に機械なんじゃないのか、あの子。

「この学園生活で規律と自由を両立するため、尽力していきたいと思います」

そう話す彼女の視線が、ぎろりとこちらを向いた。明らかに私を見た。……どうやら、目をつけられてしまったらしい。明るい学園生活に影が射し始めたような気がして、少しドキッとする。勘弁してくれないかなぁ。

気がつくと、挨拶は終わっていた。壇上からおりて、斜歯さんは席へ戻ってくる。それから私と目があったが、やはりギラギラした目つきで睨んできて、もう、なんというか、そんな目で私を見ないでほしい。

「べたべた鞄に縫い物をつけるなんて、何を考えているのかわかんねぇな」

ぼそっと、彼女はそう呟いた。その言葉は私に向けた物ではなく、私の隣に座っている、奈々ちゃんに向けた物だと気がつくまで、少しかかった。聞こえるように言ったんだ。

「風紀委員会としての自覚が足りない」

ため息を吐くように、彼女は続ける。嫌な汗が背中を伝う。なんで初日からいがみ合うような事を、この子は。奈々ちゃんはどこ吹く風って感じでニコニコしてるけど、間に挟まれてる私は胃がキリキリする。なんだこれ。

「在校生代表挨拶。本日は、生徒会長不在の為、代理の生徒が挨拶を行います。ご了承ください」

頭を抱える私の上を、進行の言葉が素通りしていく。私の学園生活は、どうなっちゃうんだろう。


「3年、風紀委員会委員長、霞ヶ浦 奈々」

同時に、横で奈々ちゃんが立ち上がる。

「はい」
「えっ?」
「は?」




入学式が終わると、今日は放課となる。基本的に新入生は明日に備えて帰宅することとなる。

――私と斜歯は、周りの生徒たちが立ち上がっても、まだ動けずにいた。

奈々ちゃん……奈々先輩はこちらにウインクをすると、他の風紀委員の方々と一緒にどこかへ行ってしまった。

風紀委員長って。その肩書きだけで人望と実力が伝わってくる、エリート中のエリートじゃん。そんな人が、さっきまで私の横で。……え、え?


あまりの衝撃に、私と斜歯は呆然としてしていた。それから示し合わせたかのように、互いに顔を見合わせる。
斜歯はまるで親でも殺してしまった時のような、そんな深刻な表情をしていた。汗をだらだら垂らしてる。ざまあみろ、という感情を通り越してなんだか哀れに思えてしまう。それから彼女は、はっと気がついたように動き出す。

「あ、謝りに行かないと……」
「え、ちょ」

斜歯はよろよろと立ち上がる。足元がおぼつかない様子で今にも転んでしまいそうだったから、慌てて支えてやる。すごいダメージが入ってるぞ、この子。確かに酷くやらかしたとはいえここまでボロボロになると、いっそ心配になってくる。

「だ、大丈夫?」
「大丈夫、だ」

……そうは言いつつも肩を貸してやると、斜歯は案外素直に従ってくる。すまない、と彼女は小さく呟いた。なんだ、ちょっと可愛いとこあるじゃん。

「お前なんかに……屈辱だ……」

なんだこいつ。ちっとも可愛くないぞ。
放り捨ててやろうかと思ったけど、流石にかわいそうだからやめてやる。自分よりもダメージを受けた人を見たからか、なんだか落ち着いてしまった。……奇妙なことに、さっき斜歯になじられたことなど、もうどうでもよくなっている私がいた。


講堂を出た私たちは、謝らなくては、と斜歯の言う通り風紀委員会の居室へ向かうことにする。奈々先輩がいるとは限らないとは思うんだけど、そんなこと言えそうになかった。
……先輩がいたら、ついでに私も謝っておこう。謝るにしても斜歯の方がひどくやらかしてしまったんだから、大して私は怒られないような気がするし。それに、もしも巻き込まれそうだったら斜歯は置いていくこともできるし。


風紀委員の居室を調べるため、私は指をふって『マッピング』を使う。先ほど奈々先輩が、学校の地図を送ってくれたはずだ。光の粒子が集まって、目の前に地図が現れる。そして、次の瞬間後悔する。

『ここで待ってるよ瑞葉ちゃん!』って文字と矢印が、赤字で大きく書かれてる。

「えぇー……?」

見なければよかったと思った。これって、もしかしなくても奈々先輩が私を呼び出してるんだよね。……見なかったことにしたい。横で斜歯が笑う。

「お前も相当らしいな?」
「嬉しそうに言わないでくれる?」

斜歯は俄然元気が出てきたようで、私の肩を振りほどくと1人で歩き始める。その様子を信じられないでいると、ほら行くぞ、なんて振り返ってくる。いい性格してるなぁ。足が重いや。


……とぼとぼと歩きながら、今まで起こったことを整理してみる。


えっと、このカンジの悪い斜歯って子が新入生代表で、奈々ちゃんが在校生代表の風紀委員長で。
それから自分の腕にぶら下がった腕章に目をやると、そこには相変わらず風紀委員と刺繍されている。

夢、じゃない?

どんな顔で、奈々先輩に会えばいいんだろう。不安がつのる。平穏で楽しい学園生活が、音を立てて崩れ去ってしまったような気がする。




特進の委員会だからか、風紀委員会の居室は広く、教室の倍近くあった。円状に並べられた机のうち窓際の、一際大きな机に彼女は座っていた。そして、机上には名札が立っている。

『城門学園 風紀委員会 委員長 霞ヶ浦 奈々 三年』


——ああ、この人は紛れもなく、私たちの上に立つ人なんだ。

「お、斜歯ちゃんと瑞葉ちゃん! よく来たね!」

呆然と立ち尽くす私たちに目を向けると、先輩は気さくに笑いかけてくる。

「そんな所に突っ立ってないでさ、ほらほら、こっちに」
「あ、あの!」

その言葉を遮って、斜歯はつかつかと先輩の前まで歩いていく。

「さっ、先ほどは、大変失礼な態度をとってしまい、申し訳ございませんでした!」

それから、深く斜歯は頭を下げた。慌てて私も駆け寄って、謝罪する。

「もっ、申し訳ありませんでした!」
「あー、いいのいいの、わたしが意地悪しちゃっただけだから! 謝る必要なんてないの!」

そこらへんの椅子に座っていいよ、と促されると、私たちはおずおず腰を下ろす。奈々先輩はへらへら笑う。

「そんな固くなんないで、ね?」
「そうは仰いますが……どんな罰でも甘んじて受けますので……」
「まーまー、まあ。失敗は誰にでもあるじゃん? これから失敗ばっかりだから気を落とさないで! 」
「でも……」

すっかりしおらしくなった斜歯が、歯がゆそうに口をもごもごする。許してくれるって言ってるんだから許してもらえばいいのに、と心の中で叫ぶ。ひょっとしてドMなんだろうか。

奈々先輩は笑顔を崩さない。

「だーかーら、気にしなくていいって! 私が、値踏みされるのが好きなだけだから」
「いえいえ、そんな……えっ?」
「えっ?」

耳を疑うような、すごい言葉が飛び出ててきた。値踏みされることが好きと、そう言ったのか。なんとなく斜歯の方を見ると、彼女も信じられないといった様子でこっちを見てきていた。今、値踏みされるのが好き、って言ったんだよね? アイコンタクトで確かめ合う。

「いやー、うん。でも瑞葉ちゃんには楽しませてもらったよ。すっごくよかった。斜歯ちゃんも。二人とも私を見るなり、どんな人間か、信用にたる人間か、付き合う価値があるか、値踏みしてくるんだもん。いいよねぇ。ゾクゾクするよね。仕分けをされるっていう、まさに、秩序への隷属なわけだよ!」

「ち、秩序へのれいぞく?」

思わず聞き返すと、彼女は私を指差して大きく頷く。

「そうそう! 悪いことは悪いこと。良い人間は良い人間。秩序の本質は分けることだと考えているからね! 秩序っていう大きな力への従属こそが、私を風紀委員長たらしめてるわけ!」

「なるほど……」

斜歯は感心したように呟いたけど、私には『なるほど、ぜんぜんわからん』って感じだ。目を輝かせながら熱弁をふるう委員長の視線はどこか明後日の方向を向いていて、常軌を逸しているような印象を受ける。

「ふふ、瑞葉ちゃんは分かってないみたいだから、噛み砕いて教えてあげるね」

奈々先輩がそう言うと、突如として斜歯が、私の横に座っていた彼女が立ち上がる。

「は?」
「えっ⁉︎」

突然の出来事に驚き、斜歯の方を見る。彼女は目を白黒させている。まるで、自分の意思で立ち上がったんじゃないみたいに。その推測を裏付けるように、斜歯は悲鳴をあげた。

「な、なに⁉︎ なにが起こってるの⁉︎」

目を白黒させる斜歯。彼女を無視して、奈々先輩は私に語りかける。

「ねえ、瑞樹ちゃん。例えば友達がさ、学校の風紀を乱すようなことをしていたら、どうしようか?」
「ふ、風紀?」

質問の意図がわからずに、おうむ返しをする。先輩は「そう、風紀。」と頷いた。横では、斜歯が騒いでいる。

「か、身体が動かせない! 委員長⁉︎ 何ですかこれ、ねえ!」

わめく斜歯を無視して、先輩は言葉を続ける。


「例えばさ、こんな風に」
「ちょっ……て、手が、勝手に……」

斜歯は、自分のスカートをたくし上げる。すると、紺色のスカートの下に穿かれていた黒のスパッツが露わになる。うっすらと地味な装飾の下着が透けて見える。

「きゃあああ!!」

今までの低めな声とはうってかわって、甲高くて可愛らしい、女子の悲鳴だった。

「なんで! なにこれ! やめろ‼︎」

必死に口では抵抗するのに、でも身体は言うことを聞かずに下着を晒している。ふるふると震えて顔を真っ赤にする斜歯は、先程までの粗雑な彼女と同一人物とは思えなかった。

「何ですこれ! 委員長!」
「スパッツは校則違反なんだよね、残念ながら。だからさ、脱いでもらうわけ」

奈々先輩は言い放つ。

「ま、魔法……⁉︎」

唖然とする私の前で、斜歯は再び動き出す。観念したのか、斜歯はもう何も言わず、ただ下唇を噛んで顔を歪めるだけだった。

するするとスパッツを脱いで、白のサテンのショーツが、汗に濡れてツヤツヤしたショーツが露わになる。スパッツの跡が太腿に残っていて、少し性的な感じがしてしまう。

私と奈々先輩の視線に晒されて、斜歯は涙目になっていた。無理もない。身体の自由を奪われた上でこんな仕打ちを受けているんだ。

「もう、勘弁してください……」
「……濡れてない?」
「えっ⁉︎」

……慌てて確認した後、斜歯に向けた発言だったと気づいて、恥ずかしくなる。確かに斜歯のショーツはちょっと濡れてるようだった。それが汗のせいなのか、違うのかは分からないが。

「〜〜ッ!」
「まあいいや。それでさ、こういう風に校則違反した子には、罰が必要なわけ」
「え、今のは罰じゃ……」
「ただ脱いだだけじゃない?」

あっけらかんと言い放たれたその言葉を受けて、斜歯は顔を青くする。彼女がこの後どんなことをされるのか、分からないがロクなことにはならないと、そう察した。

「よいしょ」

先輩が手を振ると、どこからともなく糸が——細いミシン糸? だろうか——が大量に垂れ下がって来る。それらが乱雑に絡まり合い、髪の毛ほどだった太さがどんどんと増してくる。毛糸、麻縄、最終的に親指ほどの太さになったそれが、まるで蛇のようにのたうち斜歯の足元へと這いずっていく。

嫌な予感がした。斜歯もそれを感じたのだろう、ぶるぶると瞳を震わせている。

「えっ、コレ……奈々先輩? 何を……」
「まあ瑞葉ちゃん、見てなって」

その這いずる縄は、斜歯の足首に絡みつくと、するすると脚をよじ登っていく。

「い、嫌ぁ……!」

嫌悪感からか恐怖心からか、斜歯の声は上擦っていく。それに比例するように、絡みつく触手はどんどん進んでいく。足からふくらはぎ、ふくらはぎから太腿。そして、ショーツにその首を引っ掛ける。

「やだやだやだ! やだぁっ! やめて! たすっ! ——っ!! んー‼︎」

パニックになり叫びだした彼女の口が、きゅっと閉じられた。奈々先輩は得意げに言う。

「うるさくしちゃだめだよ? ねー、瑞葉ちゃん?」

お前は叫ぶなよ? そう牽制されたのだと察する。私は頷くことしかできない。

この場から逃げ出してしまえたらどんなに楽だろう。この悪趣味な見世物から。これから何が起こるのか、想像に難くない。

指一本動かせないのか、斜歯はスカートをたくし上げたままの状態で、ぽろぽろと涙をこぼしている。鼻息は荒く、これから起こるであろう陵辱の恐ろしさに怯えているのだ。

そして、ショーツの中に、縄の頭がするすると入っていく。斜歯の目が見開かれて、ぎゅっと閉じられて、それから激しく瞬きをする。

「ん……っ、んふ、ぅ……」

もぞもぞと動くショーツの中で、縄が彼女の陰部を撫で回してる、その様子が見て取れる。

「あれ、処女なの斜歯ちゃん」

先輩は驚いたように首を傾げる。すぐに斜歯の顔がかああっと紅くなる。度を越したセクハラだった。どっちが風紀を乱しているかわかったもんじゃない。

「じゃあ、こっちにするね」
「⁉︎」

もぞもぞと、ショーツの膨らみが奥の方、お尻の方に移動する。……まさか。

「じゃ。……あ、力入れても無駄だよ」

それから、奈々先輩は軽く手を振った。

同時に、動かないはずの斜歯の身体が、びくりと痙攣したように大きく跳ねた。


「————っ!! んんんっ、ゔっ!!」

声にならない絶叫が、斜歯の口の中で響いてる。するすると進んでいく縄が、斜歯の中にどんどん収まっていくのを視覚的に理解させられる。

「あはは、出す所に入れられるのは慣れてないみたいだね」

糸の触手は斜歯の後ろの穴を嬲っているようで、ゆっくりと、ぐねぐねと脈打って、太さも徐々に増していってる。触手の動きに合わせて、彼女は目をきつく閉じたり開いたりする。

「苦しそうにしてるけど、痛くはないと思うんだけどなぁ」
「痛くはないって……」
「気持ち悪かったり良かったり、ぞわぞわしたりするってこと」

吹き出した汗が彼女の制服を透けさせる。腰が抜けたのだろう、膝ががくがくと震えているのに、魔法の力で無理やり立たされている彼女は、この上なく情けなかった。ドット柄のショーツのクロッチ部分に染みが広がり、抑えきれずにすぐに太腿へと雫が垂れて、靴下に吸い込まれる。失禁したんだ。

先ほどまでの強気な斜歯の姿はどこにもなく、ただ弄ばれる哀れな人形がそこにあった。……私は、耐えられなかった。

「あ、あの、奈々先輩」
「ん、なになに?」
「や、やりすぎじゃあ……」

私がそう言うと、ぴたりと縄の動きが止まる。時間が止まったみたいで、静かな部屋に斜歯の荒い息だけが響く。
委員長は片眉を上げて、言う。

「瑞葉ちゃんは、楽しくないの?」

空気読めよ? そういう意図が言外に込められていた。 ……ここで、斜歯を庇えばどうなるかわかったもんじゃない。それに、斜歯は嫌なヤツだし、何の義理もない。校則違反をしてるのは斜歯の方だ。

でも。

「た……楽しくないですよ……そりゃ……」


言ってしまう。

人が目の前で陵辱されるのを黙って見てるのを、楽しいだとか、私にはどうしても思えなかった。

ああ、私のバカ。大バカ。正義面気取って主人公にでもなったつもりか。なんでそんなこと言うんだ、何の得もないじゃないか。そんな後悔が私の頭の中で駆け巡り、やるせない気持ちになってくる。……今からでも訂正しようかな、やっぱり楽しいって……。

斜歯の方に目をやると、彼女はじっと静かにこっちを見ている。懇願しているのか、怒っているのか、嬉しいのか、その全部か。

そんな目で私を見ないでほしい。お前を好きだから庇ったわけじゃないから……分かるでしょ?

「へぇ、賢いんだから私に逆らったらどうなるか分かんないわけじゃないよね。でも斜歯ちゃんを庇うんだ。へぇー」

奈々先輩な私の方に近づくと、ずいと顔を寄せてくる。それから、囁くように言う。


「本当にどうなるか分かってる?」


身体が硬直する。めちゃくちゃ怖い。無理だ、絶対無理。本能が逃げろって言ってくるもん。初めてが糸触手、どころじゃなくなる。

「あ、あのあの、えっとぉ、ちょっと可哀想っていうか、やりすぎっていうか、その」

「ぷ、く、くく」

「……えっ?」

突然、奈々先輩は噴き出すように笑い出す。ぱん、と両手を合わせて、可笑しそうに表情を作った。

「なーんて、冗談、冗談! 」
「じょ、冗談?」


冗談って、今のが全部? ……え?

でも斜歯は現に今触手に貫かれてるし、まだ動ける様子は無いし、何が冗談なんだろう。ちっとも分からない。

奈々先輩はけらけら笑って続ける。

「大丈夫だよ、そういうのが楽しくないって人がいるのは知ってるから! ごめんね!」
「えっ?」
「瑞葉ちゃんが同類かと思って嬉しくなっちゃって。まあ嫌でもさ、ほら、すぐ慣れるからさ、大丈夫大丈夫」

……ん? あれ? えっ?

噛み合ってなくない?

「でもねぇ、これは決まりなんだよね」
「えっ? えっと……」
「校則違反した人は、私の魔法の餌食になってもらうの。これは決まり事だからね」

それって、つまり。
斜歯の目が見開かれる。

「瑞葉ちゃんが嫌ならちゃちゃっと済ませちゃうよ」

ごめん、斜歯。助けられないや。

「————‼︎‼︎」


奈々先輩が指を振る。止まっていた縄の触手がまた動き出し、斜歯の体内を蹂躙する。先程よりもずっと勢いは強く、つるつると、まるで掃除機のコードをしまうボタンを押した時のように、お尻の中に吸い込まれてく。違うのは、そのコードがとんでもなく長くて、いくら吸い込んでも止まらないってこと。

それから、斜歯のお腹がどんどん膨れてく。まるで、二頭身のぬいぐるみみたいに。

……あれ、なんか本当にぬいぐるみになってないか? 心なしか皮膚の光沢がつやつやした、サテン生地みたいな感じになってる。それに、身体の大きさも縮んで言ってるような……。

「あ、瑞葉ちゃん気づいた? 気づいちゃった?」

斜歯の身体がもみくちゃにされるのを呆然と眺める横で、先輩が嬉しそうに説明する。

「今ね、斜歯ちゃんをぬいぐるみにしてるんだ。具体的には中身を全部綿に変えて、ちょーっと小さくなってもらって……。まあ、見た方が早いかな」


斜歯の身体は、しゅるしゅると縮んでいく。 空中に固定されているように、彼女の足が宙に浮き、それもだんだん短くなってスカートの中に消えていく。それに合わせて、するりと制服が脱げ、地面に落ちていく。
お腹はありえないほど膨らんで、腰回りのくびれなんて関係なしにまん丸になっていた。その一方で手足は身体に吸い込まれるように小さくなっていって、腕はや脚はなくなり、胴から直接デフォルメされた手足が、ミトン状になったそれがぴょこんと生えているだけになった。
薄緑のショーツも、下と合わせた色のブラも、ずり落ちるように脱げて、彼女の素肌が露わになる。蛍光灯の灯をよく反射するそれは、明らかに人間の肌ではなかった。

やがて、身体の収縮が止まると、そこには肌色のぬいぐるみがあった。大きさはサッカーボールほどで、胴長の雪だるまのような格好だ。

宙に浮いたそれはゆっくりと、全身を見せつけるようにくるくると回転してる。

いつの間にか顔もデフォルメされていて、あんなに鋭かった目つきも愛くるしく、頬には桃色で円形のフェルトが貼り付けられている。口は×印に縫われていた。

さらけ出された胴体は、臍や乳首の位置がちょっと色が変わっていたり布が寄せられてたりしてて、人だった頃の名残を残してる。心なしか胸も膨らんでる、気がする。人だった頃の面影を残しているのが、かえって無様だった。
陰部の上の方に軽く髪の色で刺繍がされていて、それが陰毛をかたどったものだと理解できた。陰部は縦に縫い目が入れてあり、布が寄って割れ目を再現しているようだった。その縫い目は裏側まで続いているようで、控えめながらお尻の形が作られている。その中央には✳︎と肛門を模した糸が縫われていた。

どこから見ても、悪趣味な造形物だった。斜歯はその悪趣味で扇情的なぬいぐるみへと、変わり果ててしまったのだ。

「ほら、できたよ」

奈々先輩がそう言うと、縫いぐるみが私の方に飛んでくる。たどたどしくそれを受け止めると、ぽすりとした音がした。なんだか爽やかな柑橘系の香りもする。それが、斜歯が完全にぬいぐるみになってしまったのだという現実を突きつけてくるようで、どうしようもなく不気味だった。

「え、あ、う」
「そうなっても意識はあるし、声も聞こえてるよ。ちょーっとだけ敏感になってるかもだけどね」

できることなら、すぐにでも放り投げてしまいたい。震える私の手が、彼女の布地に食い込んでふかふかする。

「こ、これ、えっと……どうすれば……」

奈々先輩は笑う。

「踏んじゃえ」


「えっ」

「斜歯ちゃんは床を汚しちゃったしね。ああ、ちょうど良いや、初めてのお仕事だよ。『居室を汚して掃除しようともしない斜歯 藤子を、風紀委員会として処罰しなさい』」

「えっ、で、でも、でも!」

顔を上げて、はっとする。そこには冷たい目を向ける先輩の、委員長の姿があった。彼女は、はぁと深くため息をついて、やれやれ、といったジェスチャーをとった。

「あのさ、いい? 瑞葉ちゃんは甘いんだよ。自分にも他人にも。やりすぎなきゃ意味がないんだよ。人は痛い目を見なきゃ反省しない。風紀委員会はね、そういう所なの。ねえ、瑞葉ちゃん。このままじゃ、落第だよ?」

もう、霞ヶ浦 奈々の顔に笑みはなかった。

落第だよ。

委員長が放ったその言葉が意味する所は、私はよく知っていた。

そうだ。私は一年生で、今日は入学式で、これから素晴らしい学園生活を送るんだ。輝かしい未来へ。そのために努力だってしてきた。人一倍頑張ったし、我慢だってしてきた。たくさん切り捨てて来た。遊びだったり、友人だったり。それも全部、これからのためだ。

こんな見ず知らずの人間に、情に絆されるようなことがあってはいけない。切り捨てるべきだ。べきなんだ。

ああそうだ、踏んでやるさ。ボロ雑巾になるまで。それが必要なら。 やらなきゃやられる、だったらやるさ。

斜歯を床に置いて、私は彼女を見下ろす。
私の腕の中でぎゅうぎゅうに抱き潰されていた彼女は綿が寄って、少し変形していた。床に転がった彼女と、目があう。

……そんな目で私を見ないでよ。


本当は私だって嫌だよ。でも、でもさ、踏み潰さなきゃ私だって”こう”されちゃうんだよね? 委員長に目をつけられるし。賢い選択じゃないよ、そんなの。だから、捨てられるうちに捨てていくんだ、何でも。何でも……。


——その先に何があるんだろう。


ふと脳裏を過ぎったその言葉に、私は突き動かされてしまう。


「……です」
「……何? 聞こえないなぁ」
「嫌ですよ、そんなの……。嫌に決まってるじゃないですか! 」

言い切った。後悔はあったし、なんで言っちゃったんだろうとも思った。怖くてたまらない。胸の奥の震えて、上手に息ができない。

「なんで? 斜歯ちゃんは友達でもなんでもないよね? なんの義理もないよね? 未来の同僚だから、っていうなら筋違いだよ? 規律を重んじるべき私達が私情を挟むなんて言語道断だよね? それよりも納得できる理由があるの?」
「だって……だ、だって……」

だって、そんな人に私はなりたくてここに来たわけじゃないから。嫌なものは嫌なんだ。逆らってでも、超えちゃいけない一線を、私は超えたくなかった。
だって、そんな人に私はなりたくなかったから。
色んな考えが頭の中をぐるぐる回って、身体がかあっと熱くなる。散々迷ったあげく言葉が見つからなくて、何も言うことができなかった。

興を削がれたのか、委員長はぶっきらぼうに言う。

「ふーん。ま……いいけどさ。じゃさ、手伝ってあげるよ」


その言葉と同時に、私の全身にピリッと電流が走る。驚き、飛びのこうとして、気がつく。
身体が動かせない。指一本たりとも、ぴくりとも。声すら出せない。

「ほら、足を上げてね」

言われるがまま、私の足は上がる。そのまま、転がった斜歯の上に、踏みつけるような格好になる。

嫌だ、と思う間もなかった。

「よいしょ」

先輩がそう言うと、私は思いっきり、全体重を乗せて、斜歯だったぬいぐるみのお腹を踏みつける。
私が乗った所の綿が寄る。布の伸縮性がそれほどなかったのか糸が脆かったのか、圧がかかった合わせの部分が、股下の縫い合わせがぷつんと切れて、白い綿が顔を出す。肌色の布の裏地の、淡いピンク色がひどく生々しくて、目を逸らしてしまいたい。

あったかい斜歯の感触が、びくびく震えてる感覚が伝わってくる。

私の中で、積み上げてきた何かが音を立てて砕け散るような音がした。

「ほら、もう一回、それ」

今度は顔の部分を踏みつける。何なく凹んで、潰れかけのあんぱんみたいになる。もういよいよ、不細工な作りの人形だ。

「ほらほら、まだまだ」


踏みつける。何度も。何度も何度も何度も、何度も。その度に斜歯の縫い目から……ぽっかりとお尻まで開いた股の裂け目から、綿が抜けていく。

抵抗する気力は、私には残されていなかった。あったところで身体は動かさなかっただろうけど。

何度も繰り返すうちに、私は何が正しいのか、正しくないのか分からなくなってきてしまう。今までの自分が否定されたような気がして、ぽろぽろと涙が溢れてくる。こんなはずじゃないのに。なかったのに。

足元の斜歯が敷物みたいな扁平な絨毯になっても、まだ終わらなかった。ぬいぐるみになっても体液は出るのだろうか、踏まれて汚れて、彼女は濡れた雑巾のように変化していく。踏むたびにぐちっ、という水音が聞こえて、本当に、ただの物みたい。

そうだ、もう雑巾なんだ。これは斜歯じゃないなら、私は、もう、何したって。

そう思ったら止まらなかった。

——私は悪くないよね。

機械になったみたいに、私はそのボロ切れを踏み潰して、蹂躙する。圧倒的な力になすすべなく従う。奈々先輩が言っていたことを、今、理解した。あまり悪い気はしないや。


「……あのさ、もう自由にしてるんだけど」
「えっ!?」


慌てて足を止める。動かせる。本当だ、操作されてない。
……恐る恐る、踏んづけていたモノの様子を覗き込んでみる。

ぬいぐるみ、というよりも布がそこにあった。円形が2つ縦に並んだその形は、先ほどまでのぬいぐるみを無理やり圧延してできた、中身を失った胴体と頭の残骸だった。恐る恐る持ち上げると、股から溢れた綿が糸を引いた。それがちぎれると、その布はびくりと震える。その様子から目が離せない。
指先に何かしこりのようなものが触れる。見ると、桃色の布地が……乳首だった箇所だった。

……感じてる? 感じてたの? あれで? こんなぼろぼろにされて?

頭の中で、ぐるぐると感情が渦を巻いていく。
ぬいぐるみが、布切れになった。つまり、あの斜歯のなれの果てが、これだ。さっきまで私の横にいた彼女のことを思い出して、無理やりその布に面影を見出そうとしてみる。

ボタンだとかほつれた糸だとか顔だとか、所々にぬいぐるみの頃の面影を残しているものの、人の形からは遠くかけ離れている。綿を全て吐き出したそれは、ハンカチほどの厚みの薄っぺらな布だった。くしゃくしゃになった虚ろな目はこちらを見ることもなく、教室の天井をぼんやり見上げている。

変わり果てたその姿に、言いようのない感情が私の中に湧き上がってくる。それは、自分への失望でも、先輩への怒りでもなかった。

「どうしたの、瑞葉ちゃん? そんなまじまじ見つめちゃって」
「え、あ、う」
「可愛いよね、そうなっちゃうと。さっきまでツンツンしてた斜歯ちゃんだったら、尚更だよね。……興奮しちゃってるんでしょ?」

「ち、違……」


絶句する。声が出ないんじゃない。出させてもらえない。指先すら、ぴくりとも動かせない。……また、魔法だ。委員長がくすくす笑ってる。

「スカートの中、どうなってるのか見せて?」

こ、これって! さっき見た……!

言われるままに、私の手はスカートをたくし上げる。抵抗しようにも、力がどこにも入らない。なされるがままだ。
奈々先輩は近寄ってきて、私のショーツに指を触れる。くちゅ、と小さく水音が聞こえた。顔が沸騰しそうなくらい熱くなる。

「ふふ、ほら。濡れてぐしょぐしょじゃん」

違う、だって、だってこれは……!

「ほら、だからさ? 着替えないとね」

え、え? 着替えるって、そんな。だって、替えなんてどこにも……。


戸惑いながら、けれども身体は勝手に動いてしまう。ショーツを下ろして、剥き身になる。スースーする。恥じらう声すら出させてくれない。
それから、私は手に持っていた斜歯を、股間に押し当て——。

え、ちょ! ちょっと!

「ちょうど、替えの素材もあるし、ね」

これも先輩の魔法だろうか、斜歯だった布はぐにぐにと動いて、その形を変えているようだった。密着しているから、どのように変化しているのか大体わかる。
斜歯の全身の面積が広がり、私の股間を包み込んでいく。ちょうどフロントの部分に顔が、クロッチの部分に胸回りが、バックの部分に裂け目がくるような形だ。どれも、内側に。小ぶりな手足が横に伸びて、ショーツの紐部分を形成する。

大まかな形ができたのを、先輩は確認する。それから頷いて、小さく指を振った。

すると、ショーツがきゅううっと強く締め上げられる。

「〜〜っ⁉︎」

おもいっきり、食い込んでくる。大事な所に、おかまいなしに。割れ目の深いところまで、ぎゅうっと。

こ、こんな! こんなのって……!

「あはは、形が透けてるじゃん! ダメなショーツだね」

奈々先輩の指が、私の具をなぞる。その指先が食い込んできて、軽くトびそうになる。

「瑞葉ちゃんのここも、固くなってるし……風紀委員としての自覚が足りてないんじゃない?」

そう言って、立ち上がってきた私のそれをツンツンと突っつく。閉じてる唇の端から、甘い声が漏れてしまう。斜歯もびくびく震えて、それがまた私を刺激する。

嫌だ、嫌だよ……! こ、こんなのって……!

「精一杯頑張って潰したかいがあったね」

あれは、だって……だって。操られてたから……!

奈々先輩は冷たい目でこちらを見据えて笑ってる。


「まあ、自分で選んだ結果だしね」


……もう、ぐうの音も出なかった。

「それじゃ、準備はいい? 逆らったんだから、相応の覚悟はしてるよね? ねえ?」

だらりと垂れ下がってきた糸の触手に、頬を撫でられる。背筋が泡立つのを感じる。さあっと身体の熱が一気に冷めて、血の気が引いていくのが自分でも分かった。襟から服の中へ、触手はずるずると侵入してくる。


「そうだね、このままアップリケにして鞄に貼り付けてあげるよ。2人とも寮でしょ? じゃ、今日は一緒に帰ろっか」

糸の触手が、深く食い込んだ私のショーツに……斜歯に、雁首をひっかけた。




先輩の部屋から出た私と斜歯の間には、気まずい空気が漂っていた。

寮に帰った私たちは、手洗いされて、乾燥機で乾かされて、アイロンがけされて、それから元に戻された。

そのおかげで、まだ春先で寒いのに、身体はぽかぽかしてる。全然ありがたくない。

……斜歯と目を合わせられない。

だって、顔を合わせて1日目で、あんなことになるなんて。あり得ないでしょ、普通。何事もなかったみたいに振る舞うなんて不可能だ。

謝ったらいいのか、怒ったらいいのか。いずれにせよ、これから先同じ委員会でやっていく自信がない。

台無しだ。全部。夢の学園生活も、露と消えたんだ。


「あ、あのさ」

口を開いたのは、斜歯だった。驚いて振り向いてしまう。どんな言葉が飛んでくるんだ。
身構える私とは対照的に、斜歯は視線を泳がせて気弱な様子だった。

「今日は、その……私を見捨てればよかったじゃん。途中で、委員長を止めたりせずにさ。踏めって言われて、そのまま踏んじゃえば、その、お前は巻き込まれなかったよな? 」
「……まあ、そうだけど」

歯切れの悪い言葉にやきもきする。

「風紀委員会としてさ、規律は絶対だと思ってたから、見捨てるべきだったんだろうけど。あー、えっと……」

柄にもなく言い淀んでる。言いたいことが今ひとつピンと来ない。

「借りを作ったことなら気にしないでいいよ」
「そうじゃなくて! ……その」

斜歯は照れ臭そうに横を向いて、言葉を続ける。

「あ、ありがと……」

…………。えっ?

「えっ?」

思わず聞き返してしまうと、斜歯は顔を赤くして吠えてくる。

「ああもうウザいなあ! 絶対二度と言わないからな!」

怒ってるのに、不思議と全然怖くない。

……なんだ、簡単じゃん。

「何か言いたいことがあんのかよ! 言えよ! 巻き込んで悪かったな!」

思わず笑って言ってしまう。

「そんな目で見ないでよ、斜歯」

おしまい。
  1. 2017/07/09(日) 05:07:42|
  2. その他形状変化
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